12月30日(日) 東京都台東区上野公園にある東京都美術館で「ムンク展」を観た。

東京都台東区上野公園にある東京都美術館で「ムンク展」を観た。


20分待ちで入場した。午後に行ったから、混み合っていた。美術館は朝一番に行くのが鉄則だが、昼に着いたから仕方がない。


それでも観れた。どんなに良い作品が来ても、混んでいるなかで観ては落ち着かない。経験と想像がそう思わせていたが、観れた。執念と忍耐、図太さがあればよほどでなければ、混んでいても観れる。気になっても、気にならなかった。


結局、列に合わせれば作品の目の前に位置し、混雑がひどければ進む速度は遅く、それだけ作品を鑑賞できる。それに、じっくり観たければ足を止める。迷惑など関係ない。自分のわきを抜けて人は流れてくれる。


約100点の作品は、さすがの作品の量と規模で感想はいくらでも湧いてしまう。前半は油彩よりもリトグラフとエッチング、木版画が目を引いた。病める子、ストリンドベリー、浜辺にいる二人の女、など、数えあげればきりはない。


後半は油彩がよくなった。叫び、絶望、不安、などの有名な作品に、接吻、吸血鬼、マドンナ、のモチーフを比べられる版画、それから過剰な色彩の嵐を用意されている。


十年近く前に、マドンナの油彩が来ていて、それを観て、色んな意味で鼻血が出そうになった。悪いものを見てしまった気がして、ボードレールの悪の華の表紙でそれを観て、やはり血が色々と走った。


数年前に広島の古本屋で買った数十年昔の版画展の本でみたのが、今回の特別展にあった。年月が経っても、作品は変わらないらしい。


青も、赤も、緑も、紫も、どれも不安になりえるムンクだ。後半で不安の色が見えなくなり、観ているこちらも落ち着いた。


青いエプロンをつけた二人の少女、これがこの特別展でやっと長調を感じるようだった。垂れた目、穏やかな色調、ムンクにもこんな視座で絵を描けるのかと、嬉しさがこみ上げてきた。


雄弁に語れる少なくない作品の中で、個人的な思いで観たのが、夏の夜、声、だ。なんでもない作品かもしれないが、今の自分にはこれが最も惹かれる。立つ木立、骨まで透けるような暗色の女、屹立する満月、海、海岸、沈みきらない空の下で、いつまでも、声なき声が響き続ける。頭を壊すほどがんがんに響き、背筋が凍るほど冷たくささやくほどに、程度ははなはだしく、月と、海と、夜が、好き勝手につぶやいて、鼓膜を潰したってやまない声が内からも、外からも、空からも、海からも聞こえる。


そんな調子が聞こえてくるこの作品が今はとても好きだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る