12月14日(金) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザオーケストラ等練習場で「上野由恵フルートリサイタル20世紀音楽への扉」を聴いた。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザオーケストラ等練習場で「上野由恵フルートリサイタル20世紀音楽への扉」を聴いた。


細川俊夫:音楽監督・お話

上野由恵:フルート

中川賢一:ピアノ


ユン・イサン:無伴奏フルートのための5つのエチュードより 1番、5番

細川俊夫:フルートとピアノのためのリート

細川俊夫:フルートのための線Ⅰ

クロード・ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲(ギュスターブ・サマズイユ編曲)

三浦則子:フルートとピアノのための空から/窓から

ピエール・ブーレーズ:フルートとピアノのためのソナチネ

アンコール

ドビュッシー:シュリンクス

メシアン:黒つぐみ


HIROSHIMA HAPPY NEW EAR26、半年前の5月にはベリオ、細川さん、シェルシの曲で、ソプラノ、サクソフォン、パーカッションで25があった。年に2回、もう10年以上この企画は続いているそうで、素晴らしい。


半年前にもずいぶんと知ることが多く、素晴らしい音楽の体験ができた。今回もそうだ。過去の1回から24回を体験してみたい。演奏会にバックナンバーなどないからもう見聞きできないのに、ついそう思ってしまうのは、YouTubeなどのせいだろう。


細川さんのお話のとおり、前半のユン・イサンと細川さんの曲は、カリグラフィーとしてのアジアの筆跡の流動性を意識して聴き、確かに細く太く、ゆらめき、振れ幅が大きくなり、細かに消失して、強くひっかき、時には点を打つように、空間の中でフルートが様々な奏法で線を描いていた。カリグラフィーと聞いて、すぐに想起したのは、漢字文化ではなく、アラビア語のカリグラフィーだ。この曲にそれらの印象をうかがえないのは、あくまで黄河文明を根源としたモンゴロイドの文化であり、メソポタミア文明から続くアラビア語の荘厳で絶対の神を必ず背景に感じさせるカリグラフィーではないからだろう。


このあとに聴いたドビュッシーがなんて聴きやすいことか。物足りなさを感じるくらいだが、この曲は聴けば聴くほど発見がある。どの作曲家にもそれはあるが、ここ最近はドビュッシーの音の業績を初めて接するようで、浮遊するような配列は、この演奏会のプログラムに組み込まれているからこそ、テイスティングによってそれまでの音階とは異なる特異を見つけることができるようだ。


三浦さんの曲は、事前に作曲の経緯をこの場で聞くことができたので、明確なイメージを持って聴くことができ、言葉を音として組み込み、落差のある音でもって、自由でありながら閉鎖的な印象や、無駄を省いた純然たる生から死への推移は、時間の尺度など意味を持たないことをわかりやすく説明するように、1秒が永遠というような恋人同士が好みそうな言葉による時間の可塑性を突きつけられるようで、99年生きながら、たった1秒後に突然隕石に打ちのめされて命が潰れるような儚さと鋭さと、ビロードのような暴力性を秘めているようだった。


ブーレーズは、ちぐはぐに部品が外れながら、見えない糸と秩序によってそれが不思議に外れずにつながったままで、それは見るものに見えないのだが、そんな物体が異常なほどのエネルギーを効率悪く発散しながら機関車のような慣性を持った図太い推進力で突き進み、笑い、叫び、けたたましく色彩のペンキをインドのホーリーようにばら撒きながら、複雑なリズムと技法で演奏者をもてあそぶ悪魔のような曲だった。


アンコールのドビュッシーはやはり浮遊する音が続き、調性の崩壊する前の良き変遷の時代を感じさせ、古風でありながらも、夢幻のようで、やはり波間やうつろいやすい恋の感情などをみて、メシアンは、誰かが目眩のするような曲というとおりだが、生でその音楽を聴くと、目眩にも味わいと陶酔があり、現代音楽の音の表現は、イヤホンやスピーカーからでは極めて味わいにくいことを実感させる。


アフタートークが短くてすこし残念だったが、日本を代表する偉大な作曲家の細川さんを間近に話が聴けて、現代音楽の特徴を知ることのできるこの演奏会に、素晴らしい企画のバックナンバーがやはり見聞きしたいと思ってしまう。

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