10月27日(土) 萩の円政寺を観る。

萩の円政寺を観る。


萩城城下町の御成道から江戸屋横丁を下ると、木戸孝允旧宅、青木周弼旧宅、そして円政寺と並ぶ。


ここは伊藤博文が子供の頃住み込みで学んだところであり、大天狗の面によって子供だった高杉晋作の肝をすわらせたという場所らしい。天然痘にかかった高杉晋作は、このすぐそばに住んでいた青木周弼の手によって一命をとりとめたというから、どのような近所づきあいだったかその一端をこの土地から想像することができる。


天狗の面、石燈籠などがみどころらしいが、ここも一番の見ものは円政寺に住まう人からの説明だ。


自分一人と数人の観光客ではまだ姿を現さずにいたが、十人程度集まると奥から現れ、大きな声と、有無を言わさぬ滔々とした語り口で、まるでロボットのような無機質なリズムで話し続け、ぶっきらぼうに冗談を交えるわりに本人は一切笑わないが、抑揚と言葉使いがこなれているので、やっぱり話に引き込まれる。


次々と詰まった内容をたくさん話していたので、だいぶ忘れてしまったが、どうしてこの萩城城下町だけで、歴史に名を残す傑出した人物が大勢輩出されたかの説明がとても印象に残った。


それは、関ヶ原の戦いによって破れた西軍の総大将であった毛利輝元の減封によって、西軍のエリート層の多くが城下町に集まったからだそうだ。もともと能力のあった人々がここで住まい、優れた教育環境によって力を蓄え、関ヶ原の戦いの恨みが数百年の時を経て復讐を始める。それが明治維新へとつながり、幕府を倒す、そんな内容だった。


どうしてこの土地から明治維新を担う人物が多数現れたのか、理由があったのだ。豊臣政権五大老であった毛利輝元の無念と怨念が時を経て形となって現れ、徳川幕府を倒し、天皇家の紋章であり、豊臣家の家紋である桐紋が再び政権を象徴することになった。


一理ある話で、説得力のある説明だった。たしかにこの土地は特別な気がする。あまりにも英傑が多く、過去の因縁がそれらしく納得させる。


こんな広くない土地だけで。なんだか歴史の因縁と、人智を超えた運命を感じた。それはユダヤ人の歴史に触れて味わう理解を超えたものに似た、摩訶不思議な魔力と魅力に似たものだ。

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