10月27日(土) 津和野から電車に乗って萩へ行く。
津和野から電車に乗って萩へ行く。
6:47津和野駅発JR山口線に乗って益田へ向かう。昨日に観た車窓の景色は朝靄に濡れて瑞々しく目に映る。
1時間もせずに益田駅に到着する。駅の外を少しふらふらしてから、7:50益田駅発山陰本線に乗って萩へ向かう。
初めて乗る山陰本線は、日本海の景色がいつも憧憬として付随していた。川端康成という古くにこびりついた冬が、物語など覚えていなくても、トンネルの外に吹雪く荒波の日本海は……、しかし、あれは海の景色だっただろうか。
学生の時、同学年に新潟出身のサーファーがおり、彼の存在は日本海でもサーフィンができるという信じがたい事実を伝えてくれた。相模湾という井の中で、小さい波を相手にいい気になっていた自分は、しょせん日本海だ、冬に波が立ってもたいしたことはないだろう、そんな風に見ていたが、実際に彼のサーフィンの姿を見ると、サーフィン同好会に入った自分も含めた4人の1年生のなかで、スマートに波に乗っていた。
それからは、日本海もサーフィンができるという意味が付随された。しかしそれはあくまで言葉だけで、固定された景色は何もついておらず、細身の彼の波に乗る姿がやたら揺れているだけだった。
思いがけない1車両のローカル線に乗り、やがて海の景色が期待通り現れた。山陽本線、山陰本線、名前の響きに風格はあるものの、東海道線や常磐線の虫の化物のように車両の連なって走り続けるような叙情はない。まさか1車両とは。
寒冷前線の通過による影響か、それとも冬型の気圧配置なのだろうか、北風が強く、海は波が砕けている。昔、夜行バスに乗って金沢へ行った時、朝方目を覚まし、ふとカーテンを開けてみればバスは交差点を曲がるところで、ちょうど富山の路面電車が朝の太陽に輝きながら対向からやってきて、清新な風が車内に吹き込むようだった。目を覚まされてぼっとすれば、道は坂を登り、広漠とした日本海が黄金色に染まって小さな窓とカーテンの隙間から広がり続けた。その光景はあまりに大きく、波など見えなかった。
雲の流れは早く、ほどよい青みが空から隙間を出し、電車は日本海の風景を次々と自分に見せてくれる。たしかにサーフィンはできそうだ。彼がスマートに波に乗れるほどのものがある。
瀬戸内海は静かで、あれはあれでその海で育った人の基本となるだろうが、暗い砂浜に濁り汚れた臭い海の湘南に幾度も浸かった自分には、波がなく、物足りなさがある。やはり海には波の割れる音が欲しく、あの自然のリズムは、誰かに操られたかのように大きな波ばかり寄せては、ぴたと休んで休息と思索を与えてくれる。遠くに背の高い平行線が見えれば、賑わしい人々が急いで腕を掻いて沖へ向かい、我こそはと争って波を貪りつくし、自然は時折容赦なく、不必要なほどに波を与えて、誰もが乗り尽くしたあとも大波を与え続けては、波を乗りきった者や、乗り損なった者の頭に白い大きな顎を開いて衝撃的に襲いかかり続ける。それはまさに嵐のような時間で、潮と轟音と水中音が鳴り続け、やがて静かに波間に誰もが揺れる。それがリズムだと教えられるまでもなく、気づくのだ。
海の上を電車は走り、見下ろした波は分厚く悪くはなかった。もう日本海に幻想は抱けない。答えをもらった景色が新しく、これからは幾度も頭に現れることだろう。
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