10月21日(日) 広島県山県郡安芸太田町戸河内にあるふれあいセンターメイプルホールで「2018あきおおた国際音楽祭with Bechsteinシュトイデ弦楽四重奏団の演奏会」を観た。

安芸太田町戸河内ふれあいセンターメイプルホールで、2018あきおおた国際音楽祭with Bechstein、シュトイデ弦楽四重奏団の演奏会を観に行った。


<Ⅰ部>魂の喜び

山口あゆみ(ピアノ)

大古美織(バレエ)


ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 第2楽章より

ダカン:かっこう

ショパン:ノクターン 第20番

林昌彦:平和を求める祈り

ドビュッシー:月の光


<Ⅱ部>シュトイデ弦楽四重奏団

ベートーヴェン:弦楽四重奏のための(大フーガ)変ロ長調

シューベルト:弦楽四重奏曲第14ニ短調「死と乙女」

ヨハン・シュトラウス:南国のバラ

ヨハン・シュトラウス:トリッチ・トラッチ・ポルカ

ヨハン・シュトラウス:春の声

アンコール

ボロディン:弦楽四重奏曲第2番 第3楽章


どうしてこの人達がここに来るのだろうかと疑問に思った。ウィーン・フィルのコンサート・マスターに、ウィーン・フィルのメンバーが。葛飾区に来るのならわかる。ウィーン市フロリズドルフ区と友好都市にあり、京成線青砥駅にヨハン・シュトラウスの像があるから。安芸太田町も何かしら関係があるのだろうか。


期待していた通り素晴らしい演奏会だった。


前半は、生まれつき両手にハンデを持った山口あゆみさんのピアノに合わせて、大古美織さんのバレエが踊られた。


健常者だからとか、ハンデを持っているとかではなく、ピアノの音そのものに意識を向けて聴いた。ダカンのかっこうは何度か間があったように聴こえたが、曲の雰囲気が切なくて印象に残った。ショパンのノクターンも、林昌彦さんの曲も、どれも落ち着いた音で、結局山口さんの人生の歩みを音色から考えさせられてしまった。安々と想像できない努力をされてきたのだろう。


派手やかながら、憂いを持った大古さんの踊りが曲にそっと寄り添うような印象を持ち、じっくりと思わせる前半のプログラムだった。


シュトイデ弦楽四重奏団の演奏はさすがだった。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲のための(大フーガ)は曲に聴き慣れておらず、やや複雑な構造のせいか、曲をつかみきれずに終わってしまった。おそらくこれはとても素晴らしい曲だろう。この後に聴いたシューベルトと比較すると、熱情を持って演奏されることはなく、やや淡々としていて、味気なく思えたが、自分がなにも分かっていないだけで、滋味がたくさんつまっていることがわかる。


シューベルトの「死と乙女」が最高に素晴らしかった。シュトイデさんの幅広く奥行き深い表現は、時に驚くほど鋭く、まるでヴァイオリンを切り裂くような弓の動きから深刻な音色が出れば、ふわっとした綿毛のようなピアニッシモから、どうしてそんな繊細で柔らかい音がでるのかと唸るばかりだった。


第2ヴァイオリンのフレシネアヌさんは、シュトイデさんの音色に比べるとややふくよかだが、時には鬼気迫る勢いで音色は苦しく歌い上げられて、怖気を震うほどだった。


強弱に意味があり、強いところは本当に巨人のような強さがあるも、力任せではなく、完全にコントロールされながら桁の違う尺度で抑制されている。鮮やかな表現の豊穣だ。


ヨハン・シュトラウスの曲は、思わず体を揺らしたくなるリズムで、ウィーンの気品に溢れている。あの都市はとにかく上品なのだ。厭味ったらしさがあるも、それも素晴らしい魅力となった優雅さがあり、凋落を感じさせる暗さはこれらの曲にはない。


アンコールのボロディンの弦楽四重奏曲を聴いて、卓越した表現に感嘆した。シュトイデさんはウィーンの音色ではなく、ロシアが持つ直情的ともいえる感傷をともなって高音域のメロディーを歌いあげる。オーストリアの曲では、こんな田舎臭いともいえる民族的な、恥ずかしい真似はしないだろう。


絶対的な実力を持つシュトイデさんの余裕ある演奏と統制された四重奏に、ウィーン・フィルのコンサート・マスターはこんなに凄いのかと実感した。底知れない実力のほんの一端を垣間見ただけのようで、どうしてこんな人達がここにいるのだろうかと不思議になった。


そんな理由はどうでもよいのだろう。この人達が安芸太田町にいることをそのまま飲み込み、こんな素晴らしい演奏を聴けたことを素直に喜ぶだけでいい。


来年は、元ウィーン・フィルのコンサート・マスターのライナー・キュッヒルさんが来るかもしれないとのこと。2014年にも来ているとのことで、二回目になるらしい。


こんな素晴らしい音楽祭を企画・運営されたあきおおた国際音楽祭実行委員会の皆様に心から感謝したい。


そして来年の広響の定期演奏会にシュトイデさんは登場する。今から待ち遠しい。

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