10月13日(土) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ大ホールで広島オペラアンサンブル第43回公演オペラ「メフィストーフェレ」を観た。

JMSアステールプラザ大ホールで、広島オペラアンサンブル第43回公演オペラ「メフィストーフェレ」を観た。


作曲:アッリーゴ・ボーイト

原作:ゲーテ「ファウスト」

音楽監督・指揮:齋城英樹

演出:アンダ・タバカル・ホジェア

メフィストーフェレ:マルチェル・ロスカ

ファウスト:松本敏雄

マルゲリータ:加島裕美

エレナ:久保幸代


グノーのオペラ「ファウスト」は知っているが、このファウストは知らなかった。アッリーゴ・ボーイトは、ヴェルディの「オテロ」や「ファルスタッフ」の台本作家らしいが、作曲もしていたらしい。


物語はプロローグから始まって第1幕から第3幕までは原作の第1部が使われ、第4幕とエピローグは第2部が使われている。長大な物語をオペラで演じるには、三時間ではとても足りないだろう。グノーの「ファウスト」は第1部だけで構成されているから、物語としてみればすっきりしている。しかし天に召されるファウストが描かれなければ、この物語は完結しない。こういう形も当然の結果かもしれない。


この日は自由席で、観客は少なく、二階席は封鎖されていた。そのおかげで最前列の真ん中に座ることはできたが、寂しいものだ。せっかくルーマニアから演出家と歌い手が来ているのに。


すぐにイタリア語が気になった。ドイツ語で台詞を聴きたかったが、作品自体が素晴らしければ大した問題ではないだろう。


メフィストーフェレ役のマルチェル・ロスカさんが際立っていた。豊富な声量の野太い声に、迫力のある体躯と、諧謔さに不気味さが加わった演技は、圧倒的な存在感で観衆の注視を一人占めしていた。原作からのイメージを容易にリンクさせることができて、メフィストーフェレらしいふてぶてしい世話好きの姿が素晴らしかった。


松本さんのファウストは、隣に巨大な役者がいたせいで、声量、演技の幅が足りなかった。苦悩と、私欲、迷妄が足りず、やや冷静で落ち着き払った若年のファウストだったが、エピローグでの死に際は見ものだった。


マルゲリータの加島さん、エレナの久保さんは、どちらも表情豊かに、感情込めて歌われていて、響いてくるものが確かにあった。どの女性も情感が豊かだと感心してしまった。


なにより良かったのが演出だろう。メフィストーフェレに付きまとう二人の踊り子は、目だけを黒いマスクで覆い、黒い衣装に、赤い布を火として踊らせて、口元はメフィストーフェレの思惑を表すかのように笑みで溢れていた。神性の象徴である白い踊り手達も舞台を鮮やかに飾り、停滞することなく、華やかに演出されていた。


装置は左右に2つの階段が配置され、背後にはそびえる大きな角柱があり、高さを使うことで神の存在がより意識され、白い装束に白いマスクをつけた子どもたちを含めた大勢がゆっくりと歩いてくるのは、少し前に観た「イドメネオ」の演出と似た神の啓示だった。


音楽はどこかで聴いたことのある作曲家の個性が散らばっているようだった。第2幕の2場のワルプルギスの夜が最も引き込まれた。魔を感じさせる紫と、血のような赤い照明の使い方がとても魅力的だった。


最前列にいたおかげでより楽しめた。両隣の席は誰もいなかったので、正直嬉しかったが、勿体ないとも思った。


「イドメネオ」は観客が大勢いたのに。たしかにイドメネオのほうが全体として質はより高いものはあったが、この演出とマルチェル・ロスカさんは見逃せないものだろう。


もっと広島でオペラが盛り上がればいいのに。拍手の量が少なくて、寂しい限りだ。

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