6月29日(金) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ大ホールで広島交響楽団の「新ディスカバリー・シリーズ黄昏の維納」を聴いた。

広島交響楽団の新ディスカバリー・シリーズ黄昏の維納に行った。


ディスカバリーシリーズは今回で5回目だ。


前半はまずスッペの喜歌劇「詩人と農夫」序曲から。ディスカバリーシリーズは毎回スッペの序曲から始まる。毎回思うのは、軽快で颯爽と展開する序曲はこのシリーズの始まることを告げる意味をすでに担っており、欠席せずに足を運ぶ者にとって、普段自分から選んで聴くことは決してないスッペの序曲に対してのイメージを刷新していくようでいて、それほど発見がないのは、最初から見限っているからだろうか。


次はシューベルト(ヴェーベルン編曲)の「ドイツ舞曲」だ。ヴェーベルンの編曲ということで興味はあったのだが、眠気が勝り、印象はそれほどない。とにかく眠かった。


前半最後はシェーンベルクの「主題と変奏」だ。この曲はシェーンベルクの中でも調性があり、ところどころにマーラーの影響を強く感じて、盲目的にマーラーを好む自分にとっては刺激的でとても面白く聴くことができた。もう少し早い時代に生まれたらどんな曲を作っていたのだろうか。「浄夜」がわりと好きで、聴き始めに比べてずいぶんと好感を持てるシェーンベルクの曲を聴けるのだから、迎合的でなく、明確な意図を持って曲の選ばれているディスカバリーシリーズを今後も楽しみにできる。それにしても下野さんは奥ゆかしく指揮をする。きつい癖や個性がなく、どの曲も全体にうまくまとめて、非常に柔らかく、優しく作り上げられている。ウィーンへの愛着もさることながら、純真な心で音楽を大切に愛しているのを感じてしまう。


後半はシューベルトの「交響曲第5番」だ。このシリーズの第一回からシューベルトの交響曲を順々に演奏していて、ついに自分も少しは知っている曲が演奏された。六七年前に東京のコンサートで聴いた時は、古典的であまり面白みのない曲という印象を受けたが、今回聴いて、いかに完成度の高い、美しい曲だと改められた。ディスカバリーシリーズで聴いたシューベルトの中でも最も成熟というか、完成度が高く、どの楽章も明確に描き分けられていて、下野さんの指揮もあるが、とてもわかりやすく聴くことができた。冗長ではなく、すっきりまとまっているので、構成としても鮮やかに構築されている。


このシリーズは毎回ウィーンの多様で豊潤な音楽の側面を多面的に見せてくれる。まだスッペ、シューベルト、新ウィーン楽派だが、今後はどのようにこのシリーズが展開されていくのだろうか。アプローチはいくらでもあるだろうが、個人的には、ミーハーだとしても、いつかマーラーの交響曲を全曲演奏して欲しい。それが叶わなくても、マーラーの歌曲を掘り下げて見せてほしい。


最も住みたい都市であるウィーンに焦点の置かれたプログラムだからこそ、我儘な要望が浮いてくる。

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