2月 平和記念公園内韓国人慰霊碑傍ノ梅ノ木を観る。

 平和記念公園内韓国人慰霊碑傍ノ梅ノ木。清潔なトイレの目の前に蕾もまだらな梅の木がある。今日の広島は暖かく、誰もが春の予感を先取りして、一年で最も寒いと思われている二月であることを忘れる。


 息を吹き返す。葉は落ち、黄ばんだ葉を数枚残している職場のアンスリウム、ペペロミアは峠を越しただろうと安堵している。中国新聞本社前の橋を渡り、アステールプラザへ向かって河岸を歩くと病気がちな梅の木が一足早く花を咲かせている。花つきはあまり良くないが、去年も、一昨年もこの木から開花を告げる産声を受け取る。花の季節はもう来ているのだ。木蓮もすぐそばにきている。ベランダのブルーベリーの蕾だって黙ってはいられない。


 RCCラジオからはキャンディーズの歌が流れたはじめた。多くがオリンピックの閉幕をこじつけて春の到来を結びつける。昨日のNHKの夜の番組はかんたんだった。枕に眠って夢見る季節を目の前に待ち、五十年の歳月よりも短い平昌は一度も見ることなく幕を閉じ、浮世の儚さよりも浮世離れを感じさせる新聞紙面から都合のよい想像をのうに思い描いて目頭を熱くさせる。


 花に酔いしれる季節が待ち遠しい。遠くなった日没の時間に洗濯物を干しながら弥山へ目を向ければ、夕焼けが迫りくる。誰かが言っていた、「酔う時だ! 時間にしいたげられる奴隷にならないためには、絶えず酔いたまえ! 酒に、詩に、徳に、君の好きなように」。


 温度、湿気、時間、香り。服装だって何だって、わずかなことで敏感に感覚は欲動へとかき立てる。おそらく、苦悩さえ酔えるほどに命の躍動する時節だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る