フロム・セル

大太犬尤

第1話 あんなカバン

めくるめく世界のページをめくり目の当たりにする、とても平易なこの世の文法。

世界と宇宙の秘密を全て読み解いていく三文パルプの翻訳作業の中で、私やあなたの見た夢は一体何ページにあったのだろう?または削除された章?これからもただ漫然と続いていくのを流し読むだけだろうとしていた世界も、唐突に終わる。セカイ系的思考に彩られた自己破滅願望などでは決してなく、。


文字としてはたち現れない水面下の蠢く序章、炎上する社会現象、祀り上げられる生贄の王。それら押並べて虚構。

それはまだ、人々が<愚>という貴い徳を持っていて、世の中が今のように激しく軋みあわない時分であった。

大宇宙という暗黒の地下室で綴られた、誰のものかも解らない手記は何でも書いてあるようでいて、何一つ読み解けないという無為な代物で尚且つ偏執的な編集作業を必要とする。

だがあえてこの世の黄昏に向けて一人呟くことが在るとすれば、私達が持って生まれた自我というのは次元を貫くとある<在る>存在でなくして言うなれば<NULL>存在、意図された空白部分で在るように思う。

在るべくして無いという僕らの存在価値を問う。これは記述問題である。


では最後に、私の属する論理の帰結が迫っている。

悲しくなるほどに陳腐に詩的、だがそれが素敵。と言った彼、彼女?夕陽に呑み込まれそれすらも解らないこの黄昏に。遺伝子という仮初の文脈の誤読から始まった殺し合いの物語も、辻褄合わせのありあわせの間に合わせモノ。ただ私が読んできた文章は次の行を書き始めろといっていたに過ぎなかったのだと、今、伝え出して初めて気づく。私ら、書かれざることで物語る、破り捨てられたページとしてあなたに伝える、夢で逢いましょう?忘れ去られた言語、溶け合う文法、愛と死のポートマントー。


以上、一応この世界に杏奈が残す意向と遺稿。ある種、死者の書。

黄昏に消えた彼の人を追い、女々しいmemeを残してみよう。

誰にだって理解されない、私だけの物語を。

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