そこにいる幸せ~猫の願いが叶ったら?~

白鳥一二五

第一章

子どもの頃から……星を眺めるのが好きだった。


テストで悪い点を取って母さんに叱られたり、友達と喧嘩したり……


イヤなことを思い出しながら星空を見上げた……


無数の星々に意識を預けていると気が遠くなって、

途方もない時間を旅しているような感覚になるんだ。


そんな彼の見ていた空が、今、俺の目の前にある。


借間のベランダに出て缶ビールを片手に、

闇の中で輝く彼らに羨むような視線を向けた。


永遠かのように広大な宇宙。


その一秒の中に自分がいると思うと、

なにをしたらいいかなんて悩みは、

どれだけ小さなことだろうか?


遥か遡った時代に思いを馳せる。


生命が生まれるなんて、数億年前の星々は予想もしなかっただろう。


不思議なことはなんでも起こりうる。


そんな気がして……


【将人】

「はぁ……」


溜息を漏らして俯くと足元には愛猫のジンジャーが、

純白の体毛を月夜に輝かせながらすり寄ってきた。


心配などいらないといった様子で俺を見上げる。


【ジンジャー】

「ニャーン」


【将人】

「よしよし、もう大丈夫だ」


首筋を撫でてやると気持ちよさそうにする。


ジンジャーと出会ったのは半年くらい前の話だ。


たまたま、近くの神社へ散歩に行ったとき、そこに猫がいた。


宮司さんが飼ってはくれないかと頼んできて、断り切れず連れ込んだんだ。


幸い大家さんはここの物件に住んでいないし、隣も下も空き家だ。


それでも、バレたらマズイ。


だから、大声で鳴いたらいけないと言い付けると、

ジンジャーは大人しくいうことを聞いて餌をねだる時や甘えるときでさえ、

小さく可愛らしく鳴くようになった。


気に入ったのはそれからだ。


そういえば、あの日もこんな感じだったな……


憂鬱に沈むことなんてなにもない。


だけど、どうしてか暗く思える日。


そんなとき、いつもジンジャーは隣にいてくれた。


俺の悩みなんて、知ったこっちゃない様子で。


でも、それでいいんだ……


【将人】

「よしよし、お前も見るか?」


ジンジャーを抱き上げ、

ただ静かに、一人と一匹で星空を眺める。


【将人】

「おっ、流れ星!」


一言呟く間に白銀の一筋は闇に消える。


【ジンジャー】

「ニャーン」


【将人】

「ちゃんとお願いできたみたいだな」


頭を撫でてやると少々煩わしそうに首を動かす。


【ジンジャー】

「クシュン!」


【将人】

「なんだ、風邪でもひいたのか?」


ジンジャーの容態を心配してガラス戸を開けると、

多少よろけながら部屋へと戻っていった。


【将人】

「さてと、寝るか」


ベッドに寝転んだジンジャーに、やさしく布団をかけて俺はその隣に。


【将人】

「この時間だと医者もやってないからなぁ」


【将人】

「また明日連れて行ってやるから、今日はあったかくして寝るんだぞ?」


そうして……静かに眠りについた……

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