第32話 正しい行いと心の強さ

 最初の夜。俺はどうしても眠れなかった。

 エントランスを散策していたんだ。とくに理由はなかったが。

 階段の周りをうろついていたら、西川の声が聞こえたんだ。短くて、高い、小さな悲鳴が。

 俺はゆっくり声の元へと行った。七ノ瀬の部屋だった。

 七ノ瀬の部屋から西川の声がするのはおかしいと思ったんだ。

 俺は、扉に耳を当てた。中からは西川の悲鳴が聞こえた。

 俺はとっさに扉を開けて中に入った。

 中は、西川と七ノ瀬がベッドの上にいる状態だった。西川と七ノ瀬は服を着ていなかった。

床には男女の高校指定の制服が散らばってた。

西川は七ノ瀬に腕を拘束されている状態で、涙と唾液で顔がグチャグチャだった。

俺は何が起きているのか全く分からなかったが、身体は動いたんだ。

地面を蹴って、鋭くなった腕の先で、背中から、七ノ瀬の身体を貫いたんだ。

引き抜いた腕には、真っ赤な血と、それに濡れた毛がびっしりと付いていた。

身体に穴が開いた七ノ瀬の身体は、西川に覆いかぶさるようにして倒れた。

それからの記憶は曖昧で、七ノ瀬を西川の上からどかした。全身をドロドロに汚した西川を部屋まで運び、丁寧に身体を洗った。新しいタオルでよく拭き、クローゼットの中から着替えを取り出し、着せた。

 七ノ瀬の部屋を整理して、俺も部屋に戻った。

 次の日も、次の次の日も、西川のことを労わった。蓬には一日もないうちに勘付かれたけどな。その時ばかりは焦ったよ。どうにかして捻りだした嘘を信じてくれたのは幸いだった。

 その後からは、想像しているものであっているだろう。

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