第15話 夜風と独り言

 この屋敷には、大きなベランダが一つある。そこには照明は無く、夜になると真っ暗になってしまい、星しか見えなくなる。だが、室内の光がベランダに入ってくると、白い床を光らせ、静かに明るくなる。その光は、足元を照らすもので、帰り道を印すもので、人が来た時に影になってわかるものだった。


「南雲」

 太い声が聞こえ振り向くと、着崩れた制服が目に入った。

「水沼先輩、どうしたんですか?」

「いや、俺も夜風を浴びようかなって」

 相変わらず顔と服装に似合わないことをする人だ。

「大変なことになっちったな」

「そうですね」

 目はぼんやりと遠くを見ていた。

「どうした、山崎のことか? それとも京也のことか?」星を見上げ、水沼が呟く。

「聞いてたんですか?」

「俺もあの後、透を追いかけるために食堂から出たからな。悪かったな」

「そうですか」

 空には光が瞬く。時折それは落ちてくる。

 水沼と一樹は冷たい夜風を吸い込み、吐き出した。


 *


「すこし長い独り言に付き合ってくれないか」

 一樹は返事をしなかった。

「透と俺は幼稚園の頃からずっと一緒にいるんだ。休みの日も、遠出する時も、カフェで勉強する時も。高校選びの時も一緒に考えて、一緒の高校に入った。ここで目が覚めて透を見つけた時、さすがに出来すぎてるって思ったけど、嬉しかったんだ」

 その後、どれだけの時間が経ったのかはわからない。水沼が言っていたことはほぼ思い出話だった。

 中学の卒業式にすました顔をしていたこと、それなのに鼻水はダラダラで、こいつ悲しいんだなってわかっちゃったこと。体育祭で足を引っ張ったらどうしようって一人悩んでいたこと。

 聞くたびに、一樹の中の遠野のイメージが変わっていく。


「あいつ、夕食のカレー、スプーン左手使ってただろ。あれ、さすがに人を殺した手で食べたくなかったんだろうな。まぁただ単に銃の反動で手首を痛めただけかもしれないけど」

 思い出そうとしてみるが、さすがに細かいところまでは思い出せない。

 幼馴染というものはここまで気づけるものなのかと、京也と重ねながら星を見る。

 星が流れた。


「それじゃあそろそろ部屋に戻るわ、夜の行動もあるしな」

 水沼がポケットに手を突っ込み、明りの方へと戻っていく。ベランダの入り口で振り返ると、

「お前、村人陣営だろ? 俺の感がそう言ってる。頑張って生き残ろうな」

 と、突っ込んだ手を出し、一樹の方へと拳を向ける。その笑顔は、とても眩しく作られた笑顔だった。

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