第5話 スマホと毒

 扉の先には大きな空間があった。

 天井には、部屋に会ったものと比べ物にならないほどの大きさのシャンデリアが下がっており、その下には白い布がかけられた長く大きなテーブルと、赤いクッションの豪勢な椅子がある。部屋の脇には西洋の甲冑や、絵画が飾られている。

 全体的に暗めの印象の部屋だが、テーブルの中央にはろうそくが立てられ、用意されたカトラリーをゆらゆらと光らせている。

 椅子にはもう既に先客がいた。先客は全員、同じ高校が指定した制服を着ており、その場の雰囲気にはとても似合わず、修学旅行をイメージさせる。

 一樹は残りの開いている席に座る。沈む感覚が高級感を漂わせる。

「遅かったな」

「いやぁスマホ探してたんだけど、見つからなくって。執事に全員のスマホ回収したって言われた」

 一樹の話を聞いて、一同が自身のポケットを探り始めた。

「あれ? ない」

「私のスマホも無くなってる」

「死活問題です!」

「今まで忘れてただろ」

「俺のスマホどこ行った!」

「執事に回収されたって言ってたの聞いてなかったのか?」

 一同が騒ぎ声と、京也と遠野のツッコミの声が食堂に響き渡る。それと同時に扉が開く音がした。


「皆様お集まりになられたのでお食事をお持ちしました」

 扉の奥からは、レストランで見るような金属製の台車が入ってきた。それからは湯気が上がり、おいしそうな香りが鼻腔をくすぐる。

「本日のメニューは――」

 目の前に差し出されたそれは、高級レストランのメニューに描いてあるものをそのまま取り出したように、美しく、美味しそうだった。湯気が鼻腔をくすぐり食欲を掻き立てる。クリームパスタのクリームが天井にあるシャンデリアの光を反射して輝く。普通に食べるなら五千円はくだらないかもしれない。

「うっひょーめっちゃ美味そう!」

 その声と共に水沼がその芸術をむさぼる。他の人も手を付け始める。だが、それを蔑んだ目で見る者もいた。


「お前ら緊張感なさすぎじゃねぇか? 特に陸。毒でも入っていたらどうすんだよ」

 足を組み、腕を組み、背もたれに体重をかける体勢で、他のすべてを見下ろして、遠野がきつい言葉を投げ捨てると、全員の手が止まった。

 次々とフォークを置く者が現れる中、水沼だけは肉を頬張り続けた。

「おい陸、聞こえてんのか?」

「透こそ考えすぎじゃないのか? こんなうまいモノに毒なんて入れたらバチが当たるぞ」

 水沼の口の中のものを飲み込まずに話す姿を見て、遠野は嫌悪感を露わにする。

 すると突然、ガタンと何かが机の上を叩く音がした。

「あぁ、僕としたことが、毒物を食べてしまった!」

 七ノ瀬が険しい表情を見せる。握られた拳の周りのデスクマットが乱れている。

「心なしか気分が悪くなってきた気がする。僕、もうここまでなのでしょうか」

「毒は入っておりません」

「だとよ」

 遠野が七ノ瀬の方を見ると、七ノ瀬は乱れたデスクマットをせっせと直していた。

 遠野が机に向き直りフォークを手に取る。そのフォークを、パスタではなく目の前の老体に向けた。

「その言葉、本当なんだな?」

「こちらで出させていただいているお食事は、屋敷の中でも腕の立つ者に作らせております。それと、旦那様に食べていただく前に、執事である私が毒見をします故、毒の心配は必要ありません」

 執事が淡々と話している、その目はどこか見下している様だった。

「そりゃよかった。安心して食えるな」

 遠野がフォークを下ろし、それでパスタを巻き取る。


「ちょっと待ってください。あなたが毒を入れたことも考えられるでしょう」

 七ノ瀬が立ち上がり、執事の方を向く。

「なぜ私がそのようなことをしなくてはならないのですか?」

 その執事の声は今までよりも重たく、七ノ瀬の表情が少しだけ険しくなった。

「これからあなた方には殺し合っていただくのです。私が毒を盛る意味がありません」

 執事の口から信じられない単語が飛び出し、一同が耳を疑う。

「え? 何言ってんだよ」

 一同の声が水沼の口から出る。

「それでは時も頃合いですのでルールを説明しましょう」

「ちょっと待てよ、殺し合いってなんだよ」

「今は私が話をしています。お静かにお願いします」

 執事が水沼を睨むと、その屋敷中が凍てついたように静まり返った。


「それではルールを説明します。ご清聴お願いします。

これからあなた達にはゲームを行ってもらいます。俗に言う『人狼ゲーム』です。

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