きゅっきゅちゃん、三十六匹目
「きゅっぷ」
「結局完食したな……つか、ご飯おかわりするとかやるなぁ……」
「あれがきなこの本気だ。よく覚えておけ」
お腹をぱんぱんにしたきなこを抱え、店をでる。
つか、あの量どこに格納してるんだ……。
さて……必要物品は買ったし……もうやることなくなったな……。
「ユウキ普段なにしてんの?」
「あー? ……冒険者」
「まじかよ。神様してねーじゃん」
神様忙しいとか言っときながら……。
「だって、俺を崇めてるやつなんて魔術師か機構天使だぞ? 崇める場所がないなら神様業なんて片手間じゃい」
キリッと、そんな言い切らなくても……つか。
「神社とか寺とかないんだ?」
「ないなぁ……」
「創造神なのに……」
信仰心ないんすかこの世界の人々。
「創造神いこーる魔術の神いこーる俺って方程式、認知されてないから」
あぁ、と納得した顔でユウキが言う。
「あ?」
認知されてない?
「つか、そもそも魔術の神が俺って、認知されてないからねー」
「……え?」
どういうことっすか。
「魔術の神様がいる。だからこの世界では誰でも魔術を行使できる。だけどそれがどんな神様か誰もしらねーの。名前も、姿も不明な神様。それが俺」
「えぇ……」
「みんなには、内緒だぞ?」
音譜マークがでるレベルで宣うユウキ。
ええぇ……誰も知らないって、そ、マ?
「だから、こうやって自由にうろちょろできるんだけどなー。つっても、能力制限はしてるが」
「してるのか」
そういえば言ってたな。
「しないと皆すくんじゃうしなー」
ケケケッと笑み、ユウキは指を左から右へスライドさせる。
「魂の質量が違うって話したろ? ……人並みの生活を享受するにはほどほどに大変なーのさ」
という声はあくまで軽い。
ほんと、苦労してんのか? こいつ。
疑わしく感じる。
「苦労してんのな」
だから、棒読みで言い捨てながらきなこの腹を撫でる。
うーん。これはご立派なお腹である。
妊娠何ヵ月目だぁ?
まぁ、あの量平らげたらそうなるわな。
「きゅきゅー……」
「食いすぎだなぁ……」
俺も結構腹が苦しい。
呑み処・椿はめっちゃうまいけど、量は注意だな……!
「腹ごなしに、運動するか」
きなこの、妊婦もかくやな腹を覗き込みながらユウキが呟く。
「運動、ねぇ」
「やっぱ一番は、外にでて魔物狩ることだけどな」
「出たよ、この。冒険者脳め」
即答で吐き捨てる。
きなこも鼻息を吐き出す。フスッ。
「えー、お前らだったら死なないでしょーがぁ」
「死ななくても痛いんですー。俺は平穏に生きたい」
「きゅっきゅ、きゅっきゅちゃん」
「慣れだよ慣れ。ハネズちゃんに武器を見繕ってもらおう」
ゴーゴーとユウキは上機嫌に俺の背中を押す。
どこへ連れていく気だ!?
つーか。
「出たよまた新しいキャラ! 何人増やす気だ!?」
「なんだよメタいこというなよ。紹介したい人物はいっぱいいるんだから」
「俺言うほど人の顔覚えるの得意じゃないんでが?!」
「大丈夫大丈夫。みんなキャラ濃いからすぐ覚える。忘れない」
「そんな濃いキャラの知り合い欲しくねぇぇええええ!!」
絶叫しつつ拒否するが、哀れ。
7歳児の力じゃ神様には勝てないのだ。無念!
「ハイハイ、あんま騒ぐと誘拐と間違われるから」
半目でユウキが呻く。
「間違われてしまえ」
だから俺は返す刀で唸った。
が、ユウキは不敵な笑み……違うな、自嘲気な笑みを浮かべる。
「残念。サテライトは誘拐と認識してないから地獄にゃ堕ちないんだなぁ。ただ、周りの目が白いのが痛いだけで!」
「その基準、いまいち良く分かってないんだけど」
サテライトが罪科を判断して地獄に落としているのか?
それとも……?
しかしユウキは苦笑し、肩を竦めた。
「説明してると日が暮れる。そいうもんだと認識するがいい」
あ、面倒くさがったな。
……というか、いかに神様だっつーても、ユウキも全知ではないか。
サテライトとか、誰が開発したのかも謎だしなぁ……
「取り合えず、ハネズんとこ、行こ行こ。冒険者はいいぞぉ? なんせ稼げるからなぁ」
「俺は平穏に生きたいっつーてるだろう。聞いてんのかくぉらっ」
「威嚇したって怖くありませーん。つーか、”栄光の御印”持ちが平穏とか、宝の持ち腐れもいいところだぞ」
「なにそれ」
えいこーのみしるしぃ? 初耳……いや、生まれる前に澪夢が言ってたな。
「体のどっかに……こう……変な痣ないか?」
とユウキが空中に指を走らせる。
指の軌跡はそのまま光って空中に残った。
あー確かにそんな痣……あるなぁ、左わき腹に。
あるのだけれども……
「そんな痣のことより、それの方が気になる。何そのカッケーの」
「魔力で書いただけなんすけど。きなこもできるぞ」
「きゅっきゅちゃん」
と、きなこを見ると、触手で何か絵を描いていた。
あ、きなこ自身の似顔絵ですかね? KAWAII。
まーた、俺だけのけものですかー。そーですかー。
ふーんだ、いいもんねー、きなこの体まさぐってやる。こしょこしょー。
わき腹から腹あたりの毛が特にすべすべつやつやで触り心地抜群……
あぁ~~、いやされるんじゃぁ~~。
「きゅっきゅっきゅっきゅっきゅっきゅっきゅっきゅ」
「きなこが笑い死ぬからその辺でよしてやれ」
「死ぬのは困る」
きゅっきゅちゃんの平均寿命は10年~20年らしいのだが、それでも短く感じているのに……今死んだら……ぐすん。
「泣かなくていいだろ……きなこかわいいよな……」
呆れた声が降ってくる。
そんなこと言ってもな、ユウキ。泣くほど悲しいぞ想像するだけで。
「がわ゛い゛い゛」
今からお別れなんて考えたくないな……。
「きゅっきゅちゃーん……」
フスッと息を吐いて、変な顔をするきなこ。
その表情……ひょっとして馬鹿にしてます?
「きゅっきゅ」
フスッともう一度鼻息。
そして俺の手から抜け出してユウキの方へ行く。
……やっぱり俺はのけもの~
ショックで現実逃避を敢行する俺。
お空を見上げればやっぱり青い空。
-十三番街-がゆっくりと横切っていた。
あ、今日は高度が低い。
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