きゅっきゅちゃん、二十二匹目

 俺はメニューから和菓子セットを頼む。

 和菓子数種類と飲み物がセットになったもので、和菓子は店側が決めてくれるらしい。

 飲み物にアイス抹茶オレを頼んでみた。

 前世では結構飲んでた。懐かしいなぁ……

 子供だから飲めるかわかんないけど、オレなんだし甘いだろう。……きっと。

「なんか子供らしくねーな」

 なんてユウキが言う。

 そんなユウキは干菓子セット。

 この干菓子も店側が選ぶらしいが何が来るのやら……そしてコーラを頼んでいた。

 ……合うの? それ。

「いや、ユウキの前で取り繕わなくてもいいでしょ」

 店員さんの尻尾を目で追いながら答えれば、ユウキは喉の奥で笑みを転がす。

「ま、そだけどさ。抹茶とか飲めんの?」

「……前世から好きだったよ」

 3連休以上あったら京都行ってたわ。

 本場の抹茶はうめーです。

「へー。まぁ、雪華庵の抹茶は結構評判だぜ。期待しとけ?」

「にしては、客来てねーけど」

 見渡しても俺とユウキ以外の影はない。

 静かだ。

 きなこがぷぅぷぅと鼻提灯を作っていた。

 また寝てるし。

「あー。こっちはほんと知る人ぞ知る、だからなぁ……そも、入り組んだ路地のなかを通るわけだし。結構迷路なんだぜ? ここらへん」

「へー」

「テイクアウト専門の方はメイン通りに面してるって話したろ? あっちは大繁盛だよ。……あとで見に行くか」

 最後は口のなかで転がすように呟くユウキ。

 ほんとでござるかぁ……?

 こんだけこっちが閑古鳥だとさすがに信用できない。

 特にユウキが言うから。


「おまちどうさまー」

 とさっきの店員さんがお盆をもって帰ってきた。

 和菓子セットと、干菓子セット。


 和菓子はわらび餅と磯辺焼きだった。

 アイス抹茶オレにはガムシロップが別添えだった。

 一口飲んでから、ちょっと早すぎたと後悔しつつもガムシロップを全部入れる。

 確認確認……あー。うめえ。

「やっぱ子供なんだな」

 安心したわ、と声が降ってくる。

 そんなユウキの声にジト目を送っておいた。

「砂糖入れたら飲めるっての」

「7歳児がマセるなよ」

 クックッと喉の奥で転がすように笑むユウキに、俺はジト目のまま返すことにした。

「そういうお前は、ガキくさいのな。和菓子屋に来てまでコーラかよ」

「うっせーな、そもそも和菓子あんますきじゃねーの」

「とか言いつつ干菓子かよ」

 と、ユウキの頼んだものを見る。

 焼き八つ橋だった。

 それを白い指でつまんでカリカリと齧っている。

「ん、まぁ。八つ橋と金平糖は食うし? あと、煎餅きたら大当たり」

 干菓子セットを頼んだ理由はそれか。

 つか煎餅出るの……。

 結構米菓に力入れているのはメニューを見てわかってたけど。

「あぁ……」

「ま、俺がそれしか食えねーの知ってるから、店員もそういうの選んでくれるしな……」

「あんこダメなのか」

 うめーのに。

「だめじゃねーけど。ぜんざい食うし。ただ、あまり好きじゃないだけ。どっちかってーと、塩辛い方が好きなんだよ……酒のみだし」

「うっそだぁ……」

 塩辛い方が好きってのはわからんでもないけど、酒飲みって、めっちゃ大人やん……。

 和菓子屋でコーラすすってるやつが酒飲むとか嘘やん……。

「つか、さっき依存症とかどーの言ってたくせに信じてねーのかよ!」

 驚きだわっとユウキが叫ぶ。

 そういう風に大袈裟に反応するから、やはり大人っぽくない……。

 なんていうか

「ユウキて、かなりの年数ここで暮らしてるんだよな」

「お? あぁ……そだな?」

「にしては、俺の知る高校生とあんまかわんねーよな」

「そぉかぁ?」

 怪訝、とユウキは眉を潜めて呻く。

 組んだ足の上で頬杖をついて、前をみるとなしに半目を向けている。

 深い青色が静かに揺れている様は……まぁ、綺麗っちゃ、綺麗。

 しっかし、なんというか……俺のことを子供っぽくないと宣う彼は、それこそ大人っぽくない。

 澪夢より年上なんだよな?

「逆に聞くけど」

「お?」

 憮然とした。

 と、いうよりは、不機嫌そうな。

 そんな声でユウキが声を吐き出す。

「俺が、めっちゃ大人な対応したらお前有り難がるのかよぉ」

 そんな質問に。

 俺は迷うことなく答えた。

「気味悪がるし、そもそもこうやって付き合ってないな」

 即答。

「だろぉ?」

 それに、ユウキは頬杖をついたまま吐き出す。

「ん。まぁ、取っつきやすいから今のままの方がありがたいけどさぁ……」

 にしても、変わらなさすぎでは? って思うのは、おかしい話だろうか?


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