きゅっきゅちゃん、十七匹目
「きゅきゅぅ……」
腕の中から声がした。
目線を落とせばきなこが覚醒したらしい。
糸目なので目が開いてるかよくわからないが。
横一文がつり目になっている。あ、起きてますね。
「おはよう、きなこ」
「きゅっきゅー、きゅきゅう。きゅきゅっ!」
はい、何言ってるかわからない。
天賦の叡知はきゅっきゅちゃん語を翻訳してくれるわけじゃないみたいです。
共通語やエルフ語、神界語は翻訳してくれるのにね……。
きゅっきゅちゃんの言語は複雑怪奇なのか……なんなのか……。
いまも一生懸命きゅっきゅきゅっきゅ鳴いているが、すまん。翻訳できない。
ユウキを見れば、ユウキも困ったように肩を竦めていた。
きなこは俺の腕から抜け出して俺の肩によじ登る。手足はないように見えていたが、器用によじ登っていた。あ、違う。任意に手足を生やすのか!
なんていうか、指のない手……いや、それはいっそ触手だった。毛に覆われた触手がきゅっきゅちゃんの胴体から伸びている。
そして俺の頭上まで上って、手足を格納したらしい。
もとの餅のような体になったことを触覚が教えてくれる。
不思議な生き物だ、きゅっきゅちゃん。
と、ユウキが俺の頭からきなこを引き剥がした。
「人の頭にのらなーい。あいあむちゃんぴおんじゃねーぞ、きなこ。……お前のことだきなこ。これからお前はきなこという名前なのだ」
と、きなこと目線を合わせてユウキが言う。
それにきなこはきゅぅ、と一声鳴いた。
それからうごうごともがく。前後に大きく体を振って俺を見る。背中が反ってた。何それ、シャフ度?
かわいいけど。とっても。
「きゅきゅーん」
ずるり、とユウキの手から這い出してユウキの腕を上っていくきなこ。
なにその器用なの。
そして肩まで来るとそのまま鎮座。
「きゅっきゅーん」
「なにその、やったぜ、みたいなの」
とユウキは半目で呻くが今度は引き剥がすことはしなかった。
その代わり、俺の背中を押して前へ進ませる。
「ほれほれ、早く買い物済ませて和菓子くいにいくぞー。時間はまっちゃくれーん」
「ちょ、押すなって」
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