きゅっきゅちゃん、八匹目
「……なぁ」
「はい?」
「なんて呼べば良い?」
なので、早急に解決できそうなところから。
ワンチャン仲良くなれば……ね?
長いものには巻かれたい。わかるでしょう?
「呼び捨てで結構ですよ?」
「じゃぁ、甘える。で、澪夢」
「はい?」
再びこてり、と小首を傾げる。
癖なのなぁ……
大の大人……というか、長身の、筋肉隆々な成人男性のわりに、仕草が幼いっていうか……年不相応? あざとい?
それが、なんというか……似合っているから不思議なもんだ。
「今週末に、さ。きゅっきゅちゃん牧場行こうと思うんだけど……きゅっきゅちゃんって、スライムを家畜化したもんなんだよな? いったいどんなやつなんだ……って、澪夢?」
澪夢ならきゅっきゅちゃんについて知ってるかと思ったんだが……澪夢は石のように固まっていた。
微動ともしない。っていうか呼吸すら忘れてる?
あれ、聞いちゃまずったか……?
「っ……すいません。まさかあなたからその単語が聞けるとは……」
「え、やっぱ危険なの? きゅっきゅちゃん」
意外、と呟く澪夢に俺は眉を潜める。
やっぱもとはスライムだもんなぁ……
とか思っている俺をよそに、澪夢はゆるゆると首を降った。横に、だ。
「いいえ、基本的には人畜無害ですよ。まぁ、にゅうにゅうを補食してる時はなかなか……猟奇的ですが。人を襲うことはありませんし、むしろ懐きますし。スライムの原型全くないですよ。というか、誰から聞きました。スライムから進化したって」
半目で尋ねてくる澪夢。
……常識とか言ってたけどな……違うのか?
「……駄菓子屋のねーちゃん」
「……チルヒメですか……」
目元を片手で覆い嘆息する澪夢。
というか、手がでけぇ。
節くれだった大人の手だ。うーん。モデルもかくや。
「魔物から進化した存在がいることも、それが町中にいることも、あんまり広めてほしくないんですけどねぇ……」
「都合悪いの?」
「悪かったんですよ、つい最近まで」
いいつつ澪夢がサエライトのウィンドウを展開する。
「つい最近まで、魔物とそれ以外とで戦争してたのは……知ってますでしょう?」
「あー……10年前だっけ?」
学校でそういえば言ってたな……。
「きゅっきゅちゃんは千年単位でこの-街-にいる魔物なんですよ」
「あ」
「あの人も、もともとはそういう目的で創造したらしいですし」
吐息。
あの人と指すのは……無論優樹で。
えぇ……きゅっきゅちゃんってふざけた名前のわりに……切り崩し要員だったの?
「まぁ、逆にユウキは慧眼だったんでしょうねぇ……きゅっきゅちゃんを発見して速攻『ここを牧場地とする』とか言い出して……」
懐かしむ澪夢に俺は目を瞬かせる。
ん?
なんか大事なことをきいたきがするが理解が追い付かない。
ので、俺は首を傾げるに留まった。
「戦争かぁ……」
「生まれる前のことですしね、よくわからないですかね?」
「向こうでも経験してないしねー」
全く実感がない。
「言っても向こうの戦争とは訳が違いますけどね。冒険者対魔物の戦いですし? どっちかといえば、RPGゲーム的な、やつですよ」
「勇者が魔王を倒す的な?」
「そうそう、ただ、勇者はいませんし、魔王は子の世界を造った神様ですけどね」
クククッと笑う澪夢。
それ、笑うところか? と思わないまでもない。
でもそうか、優樹って神様なのか。
「余命いくばかの病弱な男子高校生が神様になって世界造ったってすげぇアレな生き方してるよな。漫画かよ」
半目でうめけば澪夢が目を細める。
「まぁ、たしかに? 下手な創作にありそうですよね。……でも、私も、結構珍しい生い立ちしてるんですよ」
ふふん、と笑う澪夢。
え、澪夢って転生者……あぁ、転生前ってこと?
いや、違うな? この世界に転生した当初は人間だったってことか?
「この世界でも人間だったのか?」
「数年限りですけどね。この世界でも神様に供物を備える文化がありましてね」
「まった。それ以上聞きたくない」
嫌な予感がして俺は澪夢を遮った。
今の流れ……絶対……。
「優しいですねぇ……貴方。でも、聞いてくださいよ。笑い話だから」
「え、なにそれ」
笑い話と言われると……気になる。
「まぁ、察しの通り人身御供にされたわけですけど。雨が止まない村で、川の氾濫を収めるために川に身投げさせられまして。でも私、運悪く生き延びちゃって。瀕死で川縁に打ち上げられて。もう幾ばかでやっぱり死ぬってときに……魔神のゆうきと契約しましてね?」
「ん?」
話の流れは変わったみたいだが、やっぱ笑い話じゃないな?
「魂の一部と、この世界での情報を引き換えに、人外に作り替えられまして」
「いや、笑い話じゃないよね?」
違うでしょ? これ、笑うところないよね?!
「いえいえ、これからですよ。で、力を得た私は……雨を降らせていた龍神に報復……というか八つ裂きにしましてね? そのせいでその村は干魃にあって結局滅んだんですよ。笑えるでしょう?」
「笑い話じゃないね?! 大惨事じゃない!?」
人外ジョークわからない。
いや、まぁ。人間を供物として捧げさせる神もクソだし捧げる他の人間も滅んで当然だけどさぁ……。いや、笑い話じゃないよね?
「おや、笑えませんか。ほんと、優しいんですねぇ」
「優しいとかそういうレベルじゃないよね? 子供だけどわかるよそこらへん」
疲れてきたので机に顎を乗せながら澪夢を見た。
「とりあえず、めっちゃ苦労してきたのはわかった」
「苦労って苦労してませんけどね?」
「うっそだぁ……」
人身御供にさらされる時点でやばいでそ。
本心のままに言えば澪夢は破顔した。
「いやぁ、ほんとほんと。今楽しく-街-を管理してますしー。何でもできますからねぇ」
私以上にこの-街-を知り尽くしてる人がいたらお目にかかりたい。
そう豪語する澪夢の瞳は餌を目前にした猛獣さながらに輝いていた。
あ、はい。それは……確かに。
Arkというのがこの-街-で絶大な権力を持っていることを俺は知っている。
むしろArkなしにこの-街-は成り立たない。
生活の基盤を支えている、そんな組織なのだ。
ぶっちゃけ、副知事みたいなもんだしなぁ。
都道府県というよりは州の、な。
アルヴェリア王国は巨大なのだ。
なにしろ地表のほとんどがアルヴェリアの国土なのだから。しかし、その国土のほとんどは手付かずの自然で、人々が暮らしているのは各-街-の……11ヶ所だけ。
しかし、その-街-ひとつとっても前世の1国くらいの規模があるんだから、やっぱり広大である。
で、その-街-を管理しているのがArkで、澪夢は-8番街-を担当しているArkのNo2ってことになる。
うわ、巨大な権力だ。
といっても、この-8番街-はこの星のどこと比べ物にならないほど平穏で、治安のよい-街-だと知っている。
暮らしやすく、だれもが幸せを享受できているのは目の前にいるこの人のお陰だと、知っているのだけれども……。
うーん。面と向かってそういわれると。
「すげぇな」
これしかいえないよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます