スランプライターと放課後JK

カゲユー

第1話 

 朝日が差し込み爽やかな空気が流れる1のA教室。しかし、教室の最後列左端だけ空間が切り取られたかのようによどんだ空気が流れている。

 そのよどんだ空気の主は頼田書文(よりた かきふみ)という少年である。

 彼は名が体を表すように、生粋の物書きである。しかし完璧主義者でもあるため非常に推敲を重ねる。そのため執筆活動を始めて十年、未だに納得のいく作品を完成させたためしがない。加えて最近はスランプに陥ってしまい絶賛不機嫌モード継続中である。

「なーに朝から険しい顔してんのよ。朝ご飯が不味かったの?」

「朝ご飯は変わらぬおいしさのグラノーラだ。朝日が眩しいから目を細めてるだけだよ」

 気さくに話しかけてきたのは玲間凛華(れいま りんか)という少女である。

 彼女はいわゆるクラスのウェーイなグループに属していたが、なんとなく発生したイジメの的にされてしまい、一時期クラスで孤立していた。その状況を見て小説のネタになると思い、書文が介入し、大立ち回りを繰り広げたことによって彼女は楽しいスクールライフを取り戻し、書文は変人の烙印を押された。

「それよりあんたさ、放課後ヒマ?」

「おう、デートの誘いか。丁度デートの描写が詰まってたところなんだ。ヒマだよ」

「バ、バカッ!デートじゃないわよ!この前奢ってもらったときの貸しを返すだけよ!」

「そんなら手っ取り早くこの場で現金でいいんじゃない?」

「細かいのがないのよ!とにかく放課後は銀だこね!決定!」

 キーンコーンカーンコーン、と二人の放課後の予定が決まったところでちょうどチャイムが鳴った。教師が入室し学生たちの学園生活が始まる。

・・・放課後・・・

「ああうめぇうめぇ、やっぱチーマヨタコ焼きは最高だ」

 ぱくぱくとチーマヨタコ焼きを口に放り込みながら味に感嘆する書文の対面には、対照的にふぅふぅと冷ましながら、ちびちびとタコ焼き食べる凛華がいる。

「できたてのアツアツをよくそのペースで食べれるわね。口内神経死んでるの?」

「熱をうまいこと逃がす食べかたってのがあるんだよ」

「ふーん」

・・・しばらく無言の時間が流れる。書文は無言が気にならないタイプだが、凛華はとても気まずく感じるタイプ。どうにか話題を探すが、見つからない。

結局無言のままタコ焼きを食べ終え、帰路に至る。

「今日はタコ焼きありがとな」

「ちょっと、なにまとめに入ろうとしてんのよ」

「だってもう貸しは返してもらったし…もう帰るばっかりじゃないの?それともまだどっかいくの?」

「いや、行かないけどさ…」

 凛華は内心困っていた。デートじゃないとは言ったが、仮にもティーンエイジャーが二人放課後に買い食いするのだから、青春の一ページに残るような楽しい時間を過ごせると思っていたからだ。だが実際はただタコ焼きを無言で食べただけという退屈な時間だった。こんなはずではと頭を悩ませていると、

「あ!仮面サイダーじゃん!」

と、書文はレアな清涼飲料水が入っている自販機を見つけて飛びついた。

「いやぁ懐かしいなぁ。まさかこの年になってまたお目にかかることができるなんて!これは買わにゃいかんな」

ウキウキで財布を取り出したが、「ア!」と言って固まる書文。

「凛華ぁ、悪いけど金貸してくれよぉ。ここで買い逃したらもう二度と買えない気がするんだよう」

 しおれた顔と声で懇願する書文に凛華はまた困惑する。普段無口無表情無感情な男がここまで情けなく感情的になる姿を初めて見たからだ。

「今度なんか奢るからさぁ頼むよぉ」

 その言葉を聞いた瞬間凛華の顔はパアッと明るくなった。

「しょうがないわね。良いわ、貸してあげる。そのかわり明日は書文が奢ってね」

「やったー!」

硬貨を受け取りウキウキで自販機に向かう書文を見ながら凛華は思う。今日はこいつの知らなかった一面を見れただけでもいっか。思い描いていた青春の一ページは明日に期待しよう、と。

「はいこれ」

「えっ、人のお金で二つも買ったの?」

「ちがうよ、当たったんだよ。ラッキーだよな、僕たちって」

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