Nostalgic~湯けむりに咲く白い花~

@naito8810

第1話 あの日の夢



東京にあるという理由だけで学力的に手頃な所を選び進学した大学を卒業して、そのまま流れで何となく受かった企業に入社してからもう3年になる。



大学入学のため地方の実家から出て上京した初めての一人暮らしは大学からそこまで離れてなくて安かったという理由で何となく選んだアパートだった。



就職してからも会社からそこまで離れていないこともあり、そのままそのアパートに住んでいる。



何をするにも決めるにも拘りも信念もなく何となくやってきたオレは特にこれといった趣味も無く、この東京には友人と呼べる存在も彼女もいない。

地元にはそれなりの友人はいたがもう何年も連絡を取っていないのでもう友人とは呼べないだろう。


会社の同僚とも付き合い程度の関係だ。


仕事終わりや休日は家にこもり、やることといえばスマホでネット掲示板のまとめニュースサイトを眺めながらベットで丸まっているか、ポチポチとスマホゲームをタップしたりSNSで誰とやり取りするわけでなく一人でポツポツ呟くくらいか。


食事は大体帰り道のコンビニで買った弁当かインスタント食品を一人で食べる。



そんなオレ、赤松宏徒≪あかまつ ひろと≫。25歳社会人童貞。


はっきり言ってつまらない人生というやつを送っているだろう。


そんな生活に少し嫌気がさして人生に絶望し始めていた頃、そんな気分を振り払おうと着替えもせずにベットに飛び込み寝てしまった夜、久しぶりにはっきりとした昔の夢を見た。


───────────────────────────────


「どうしてこんなところで泣いているの?」



そこはオレが生まれた田舎町に流れる川に架かる橋の下だった。

地元でお気に入りのスポットの一つだったこともあり良く覚えている。



「ねぇ、この川には何がいるの?」



橋の下の陰で一人体育座りして泣いていた俺は少女に話しかけられていた。


田舎町ということもあり近所の子どもや夏休みなどに帰省してきた近所の年寄りの孫などは大体顔見知りだったが、その白いワンピースとリボンの付いた白い帽子の上品なお嬢様のような恰好をした少女は見たことがなかった。


なんとなくヒマワリ畑が似合いそうだ。


この町はそこまで観光地として賑わっているというわけでは無いが、一応温泉のある町として観光客はゼロでは無かったということもあり、観光で来たんだろうなと夢の中のオレは返事もせず顔を膝元に戻し埋める。


・・・思い出した。

確か小学校5年生の頃だ。

この日は隣の家で飼われていた良く一緒に遊んでいて大好きだった犬が寿命で亡くなってしまった日だった。


しばらく前から室内飼いになって会う事は少なくなっていたが、訃報を聞いたときはとにかく悲しくて一人になりたくて橋の下で泣いてたんだ。


少女はそんな時に現れて、この後もしつこく話しかけてきたものだから当時のオレは思わず「うるさい!向こうへいけ!」と怒鳴ってしまったのだ。

その時の彼女の驚き悲しそうな顔も覚えている。


あの後すぐに少女は泣きながら走って河川敷の上に上がってそのまま居なくなってしまったのだった。


それからはもうその少女と会う事はなかった。


思い出すと、もう10年以上前の事なのにとてつもない罪悪感を感じてしまう。


「あ、見て!今小さい魚が跳ねたわ!」


「・・・もう少し上流の方にいけば、もっと大きいのもいる。」


罪悪感からか、自然と少女の言葉に応答してしまった。


夢なのに普通に話せてしまった。


もう過去の話で意味はない行為だけど少しでも罪悪感は晴れるだろう。

まぁ、完全な自己満足だ。


「ふふ、やっと返事してくれたね?」


たとえ夢だとしても満開の花のように嬉しそうな彼女の笑顔が見れてよかっただろう。


・・・明日の仕事も頑張れそうだ。


─────────────────────────────────


寝る前の憂鬱な気分は消え、少しだけ幸せな気分のままオレは深い眠りに付いたらしく、そこで夢の記憶は終わっていた。


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