日本御伽警察・怪談一係の事件簿Ⅱ
来冬 邦子
第一話 急募・パート求むの巻
「やれやれ。やっと昼飯か」
タヌキの中村巡査部長、通称、長さんはパソコンから鼻面をあげると、短い前足を突きあげて、ふあ~いと伸びをした。両目を隈取る黒い毛に白髪が交じっている。今朝は経費の精算と書類整理で忙殺されていたのだ。
「もう二時じゃないか。まいったなあ」
「俺もう、肩がバッキバッキですよ」
ツキノワグマの荒勢巡査も後足で立ち上がって伸びをしたら前足が天井に届いた。
「
中村が、隣のこざっぱりと片付いたデスクを恨めしそうに眺める。
棗ちゃんとは怪談一係所属のカワウソの婦人警官だが、アラスカのラッコ海難救助特別部隊の合同研修に参加するため長期出張していた。
彼らの所属するNPO法人・
二つの世界を自分ルールで行き来する妖怪や幽霊や
よっこらせと腰を上げた中村が、ロッカーから取り出したのは、職場のビルの1階にある弁当屋で買った鶏の唐揚げ弁当だ。レンジで温めている間に、慣れた仕草でお茶を淹れめたはじめた。
御伽警察・怪談一係のオフィスは、床も壁も天井もすべてフローリングである。
広い窓に合わせたウッドブラインドから洩れる陽射しが心地良い。オフィスの中央には向かい合わせに四台のデスクが置かれて、どれにも高スペックのノートパソコンとプリンタ、キャスター付きのキャビネットが備え付けてあった。
オフィスの奧にはカラフルな木製のロッカーと電子レンジ、冷蔵庫、ポットなどがオブジェのように並び、休憩用のテーブルとソファーが置かれている。
一方、出入り口側に取られた広いスペースには、会議用のホワイトボードとモニターと数個のベンチが並んでいた。
「臨時の事務のパートさん、募集したんでしょう? 長さん?」
大柄な荒勢巡査は、ロッカーから引っ張り出した風呂敷包みをテーブルにひろげ、洗面器のような二段弁当にぎっしり詰まったドングリをむしゃむしゃ食べながら訊いた。
「ああ。そろそろ一人面接に来るはずだ」
タヌキの中村は湯飲みのお茶で箸の先を湿らせてから、弁当にとりかかる。
「心の優しい人だといいですよね」
ツキノワグマは不安げに鼻面に前足を寄せた。
「お前、気が弱いなあ。クマが事務パートにビビってどうするんだよ」
「俺、これでも人見知りなんすよ」
中村がひゃっひゃっと笑っていると、遠慮がちにドアをノックする音がした。
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