11.ジンの一日
シーカー試験に現れた二体のルーク級シャドウ。その存在は当然問題視された。イーサン・ウェストを初めとする司令部は緊急会談を開き、問題を協議した。会議室の円卓に集められたのはウェスト、ノス、そして二人の高齢の男だった。
「これは司令部の責任問題だよ君ぃ! 今すぐ現司令部は責任を取って解散すべきだ!」
ノスよりもぶくぶくに太った、刈り上げの眼鏡を掛けた男性が唾を飛ばしながら熱弁する。彼はジャガ・サウスト。事務部門の部門長だ。何かにつけては司令部の責任を問う、ノスからすれば鬱陶しい男であった。
(サウストめ……口を開けば解散解散、辞任辞任だ。今のシーカーはウェストのカリスマで成り立っている様なものなのに、愚かな……)
ノスは自身の保身を考えたかった。そのためにもウェスト体制は崩すわけにはいかなかった。絶対的カリスマの後に控えるナンバー2、この地位が一番彼にとって居心地がいいものであった。
そんな彼の頭痛の種はジャガだけではない。自身が担ぎあげるウェストも同様であった。
「私の首一つで責任を取れるのなら、いつでもやめてやろう」
ウェストは隙あらばやめようとしてくる。ノスも分かっていた。ウェストがやめればジャガが司令を狙ってくる。しかし事務方のトップでしかない彼に現場で働くシーカーの受け皿は荷が重すぎる。事務方、実働部隊のシーカー、両方に影響力のある人間でなければ司令は務まらない。その適任こそウェストなのだ。
(サウストは事務方……それも組織内政治にしか長けていない人材だ。私の安寧の為、この男にだけは司令を任せられない!)
ジャガは自分が司令になったのなら真っ先に副司令である自分を入れ替えるだろう。保身もそうだが、そうなれば組織的混乱も避けられない。ジャガはそういう組織が混乱するといった目線が無く、自分が優越感を得られれば満足するタイプであることを、その尻ぬぐいに徹したノスは分かっている。
(今思い出しても胃が痛い! 事務方の慣れた人材を自分の派閥の人間に総とっかえして混乱を招いた日々の事を……。ようやく落ち着いてきたというのにこいつは……!)
「そこまで言うのならやめていただこう!」
生き生きと責任を追及するジャガをノスが制する。
「待て、まだ原因も分かっていないのだ。そこまで責任を追及するということは、シャドウを操るアークウイングの出であるあなたが一番怪しく見えるが、どうかね?」
ノスはジャガの脛に持つ傷を攻撃する。これがある限り、ノスはジャガを止めることが出来る。実際、シーカー内の問題はジャガの勢力がやっているのではないかと噂される不祥事が多く存在する。
「これだから若造共は困る。さっさと組織を儂に引き渡せば小うるさいのも無能も纏めてやめさせてやる!」
先ほどまで黙っていたハゲ頭に長い髭の老人が声を張り上げる。これもまた、ノスにとって頭の痛い人材であった。
(イスト・ワール……力任せの脳筋が、歳を食ってるのが偉いなんて考えが地球をダメにしたというのに……)
実働部隊部門長、イスト・ワール。その実力は折り紙付きだが、問題は徹底的な年功序列主義者ということだ。地球から離れたというのに、その地球への執着はアークウイングの民に匹敵すると言ってもいい。
「ともかく、ここは責任の所在を問う場所ではない。事故調査委員会を立ち上げ、原因を調べる、そのために集まったことをお忘れなく! 何かにつけて政争の具にすれば、組織は忽ち弱体化し、各惑星からの信頼を失う!」
勢力争いに燃える老人たちを止めるのがノスの役割だった。実際、シーカーの権限である核惑星国家へ入国する際の緩い審査はシーカーが信頼されている証、それを失えばアークウイング同様、ただの来訪者になり下がる。
「この一件は以前、カプリチオがネクノミコで遭遇した一連の事件の報復ではないかと考えられる。我々は周辺のシャドウ一掃と厳重注意の措置を行ったが、それでは懲りていないということだ。今一度、ブロックCのエルヴィン家を監視するのだ」
ノスはこれをアークウイングの仕業と考えていた。というかシャドウを自由に駆使できるのはあそこの連中しかいないので、それしか考えられないのだが。しかしアークウイングを疑うと当然、反発する者が出る。ジャガだ。
「なんと、シーカーがアークウイングに内政干渉するとおっしゃるか」
「シャドウ問題は地球の二の舞にならない様に枠を超えた監視が必要なのだ。そもそもシャドウを地球から持ち出したアークウイングなど監視が不可欠な存在だ!」
事務方の頂点に立つ人間がアークウイングへ肩入れしている。想像以上に危うい地盤の上に、シーカーという組織は成り立っていた。
@
シーカー試験を終えて、ジンは惑星ギアズのヘッケラータウンへと戻ってきた。映画の西部劇で見た様な街並みにも、彼は慣れつつあった。朝日が昇るとジンは真っ先に起床し、身支度を済ませる。常夜の星にいたせいか、朝日を浴びるのが最高の贅沢と思う様になっていた。
「おや、郵便が届いてる」
今日は店のポストに、クエストボードに張る危険生物の情報など以外のものが入っていた。宛名を見ると、ジン宛てとなっている。差出人は不明だ。ジンは警戒する。こういうものは得てしてよからぬ罠である場合が多い。シーカー試験を経てすっかり疑り深くなったジンは封筒の厚みなどから罠の危険を探る。
「なんだ? お前宛てに郵便か?」
クインも二階の自室から降りてきて、郵便の中身を確かめる。ジンは封の反対側から封筒を開き、中身を確認する。中に入っていたのは一枚の紙であった。
「何々?」
『アークウイングの民へ。よりよき生活を望むのなら、指定の日時にここへ一人で来るといい』
中身はハッキリと言って、怪文書であった。時間や場所の指定こそあれ、差出人不明な時点でうまい話には違いないがジンは乗る気など無かった。
「怪しー、いたずらじゃね?」
「一応、シーカー支部に報告は入れておくよ」
クインは先日のシャドウ出現事件との関連を怪しんで、念のため報告を上げることにした。ジンはゴージャスな暮らしこそ求めど、こういう怪しい話には飛びつかない程度の警戒心は備えている。そうでなければ、以前ブライトエリアCブロック付近で見た様な始末に巻き込まれてとっくに命を落としているだろう。
「で、お前今日はどこいくの?」
クインが外出の準備をしているので、ジンは聞いた。マシンガンを手に沢山の弾倉が入ったチョッキを見に着けているので一体何を倒しにいくのか気になった。ダウンレックス相手でもこんな重装備はしていなかった。
「氷霧と一緒にこの前倒したフェアウルフの集落を襲撃にな」
「スゲーことすんだな」
襲ってきたのを追い返すまではジンも理解できたが、わざわざ集落まで行ってボコボコにするのはちょっと理解できなかった。平和に見えても状況はひっ迫しているというのだろうか。
「ああ、あいつら繁殖力高くてすぐ大人になるから、集落を襲撃して数を減らさないとまたここを準備整えて襲ってくるかもしれないし」
「そういえばなんであいつらこの町を襲うんだ? 金使いそうにないのに、何が目当てなんだ?」
ジンはまず、根本のフェアウルフが街を襲う理由について理解していなかった。以前の襲撃では、ただ襲撃というイベントが起きることを学んだだけである。
「まぁまずは住みやすい土地だろうな。ここは盆地で気温の変化も山間部よりは穏やかだし」
惑星ギアズという環境が昼間は熱く、夜は冷えることをジンは知っている。住みやすい土地の奪い合いが主な争いの原因だったりする。こうしてギアズの住民であるクインが平然と集落の襲撃を仕事としている辺り、やはり分かり合えない種族なのだろう。ジンもネクノミコでは警察や富裕層が殺しても誰も文句を言わないスラムの人間を殺して遊んでいるところを見ており、人間同士でも分かり合えないことをよく知っている。
「まぁなんだ、いっぱい稼いでこいよ」
「おう、楽しみにしてな」
文化の違いも飲み込んでクインを送り出すジンなのであった。
今日も今日とて日中はお客さんがいなくて暇である。シーカーズカフェを謳っている以上、シーカーのたまり場を目指しているのだろうがそのシーカーが少ないのだ。閑古鳥の一匹や二匹も鳴こうものである。
「暇だな……」
ジンは掃除を終えて改めて呟く。客が少ないということは当然汚れも少なく、掃除もすぐ終わってしまう。洗う皿は無く、ジンに出来る範囲の仕事はもう無くなってしまった。こうなればもはや彼に出来るのはぼんやりとすることくらいである。
「暇だね……」
カウンターに座るカノンはコーヒーの豆を挽くでも料理の下ごしらえをするでもなくのんびりしている。ジンがシーカーを目指しているのは彼女も当然認めており、店に縛り付けない様に料理を教えることもしない。
「試験どうだった?」
カノンは試験の結果を聞く。シーカー試験は年によって学科試験以外その内容が大きく変わるため、これを聞くのも先輩シーカーの楽しみだったりする。カノンの年はまた違った内容の試験が繰り広げられたのだ。
「学科はまぁまぁってとこですかね。あとなんか一部屋に集められて水入れられた。隣の奴がウォーマン? って種族じゃなかったら危なかったよ」
「へー、そんな試験だったんだ。あたしの年はガスだったよ」
「やっべぇな……」
ジンはカノンから話を聞いて絶句した。水はまだマシな方なのだろうか。ただ結局は壁の薄い脱出口を見つけて対処しろという意図は変わらない様に見える。
「その後学科試験やって班に分かれて部屋に閉じ込められてさー。変な奴が一緒だったから大変だったよ」
「あー、そういうのあるよね。チームで足引っ張る奴がいると大変だ」
ジンは自分の合否はともかく、ジミーは落ちただろうと思っていた。あの自分勝手な行動、不用意で学習能力の欠片も無い浅慮さが全て筒抜けになっていたわけなのだから。
「おまけにシャドウ出てきたもんだから大変だったよ……」
追い打ちをかける様にルーク級シャドウの出現。二体目はガイアとクインによって撃破されたからいいものの、一体目はサクヤの軽率な行動で大変なことになった。あの場に二人が来ていたということは倒さなくても時間を稼げば救出されたのだ。
「毎年どっからか嫌がらせ入るんだよな、シーカー試験。護衛の依頼も増えるからシーカーにとっては稼ぎ時でもあるんだけど」
「そうなのか」
カノンが言うには試験の妨害はお約束らしい。そうなると実際に妨害を受けてしまったジンのチームは運が無かったのか、それともそれを乗り越えたアピールが出来て運がよかったのか。結果が出るまでなんとも言えない。
「そういえば今日、クインはフェアウルフの集落を襲撃に行ってたんだな。藪を突いて蛇を出す結果にならなきゃいいが……」
ジンは以前のガントータスがそうであったように、追い詰められたフェアウルフが何かしでかさないか心配であった。わざわざ争いを起こす必要も無いだろうに、とジンは少し思っていた。しかしカノンによるとそうはならないらしい。
「むしろ放っておいて敵が勢力付ける方が危ないよ?」
「そういうもんなのか……」
ジンはやはり文化の違いから、常に敵対する種族がいる環境に慣れていなかった。ネクノミコでは人間同士の争いが主であったからだ。そこでカノンはある昔話をすることにした。
「昔話をしてあげる。これはアークウイングもノアもまだリュウオウ太陽系に来ていなくて、太陽系にも名前が付いていなかった時期の話よ。フェアウルフとリザードマンはその圧倒的数と成長速度で、知能で勝るものの数では少数のアニマを迫害していたの」
「そんな時代があったのか……」
今でこそギアズの主流になっている先住民、アニマだがその昔は存在自体が危うい状態だったのだという。またリザードマンという亜人種も存在するらしい。
「そこにアークウイングの移民がやってきて、ますますアニマの存在は危うくなった。だけど後からやってきたノアのシーカー達によってアニマは保護され、ギアズの環境を思うままに貪っていたフェアウルフ、リザードマン、アークウイングの移民はその立場を追われることになった」
「へー、豊かになるのも大変だったんだな……」
今のアニマが安全で豊かな生活を送れるのは、先人の努力によるもの。またその努力は今も続いているという。
「だけど亜人種はアニマの街を襲っている。言葉が通じないから真相はわからないけど、またアニマを下に置こうと、かつての隆盛を取り戻そうとしているんでしょうね。だからこちらからも積極的に叩く必要があるってわけ」
「なるほど、この生活を維持するためにもあいつらは見過ごせないってわけだな」
ジンもシーカーの仕事に亜人種の襲撃がある理由が納得出来た。油断すればいつこの平和も脅かされるか分かったものでないのなら、それは必要なことだ。
「……」
「……」
しかし暇である。一緒に暮らしているものの、カノンとジンは一日中話のタネが尽きないという間でもない。
「そうだ、荒野に行ってきてギアズサボテンの実を摘んできてくれない? ジャムに使うから。赤い奴ね、赤いの」
そこでカノンは持て余しているジンを働かせるため、そんな提案をする。ギアズの荒野には実を付けるサボテンが自生しており、この実がとても美味しい。それをジャムにしようという魂胆なのだが、カノンをよく知る人が聞いたら卒倒しそうなものである。
「はーい」
ジンはエプロンを片付けて早速出かけようとする。貧乏暮らしで味覚が死んでいる彼の預かり知らぬことであるが、カノンの作る料理はよく言えば豪快、悪く言えば大雑把なものが多い。その為か、繊細な計量を必要とするお菓子を作ると悲惨な結果になるのだ。
「気を付けるのはサボテンの実だけ狩ることだよ。実はまたすぐ成るけど、サボテンは成長するのに時間が掛かるからね。あと、熟してなくて緑っぽい実はまだ取らないことだね」
カノンは注意点をジンに伝える。自然と共に生きるということは、こういうことも大事になってくるのだ。
「さて、行ってきます」
ジンは剣と籠を持ってサボテン狩りに出かけることにした。街を出れば周囲は荒野。サボテン狩りは容易な仕事に見えた。
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惑星ネクノミコのブライトエリア、ブロックCでは依然、ドゥーグによる監視が続いていた。庭を掃除するメイドのフラニー、フランチェスカ・アイダホはこのドゥーグを当然ながら鬱陶しく思っていた。かといって破壊したりネクノミコの警察に通報すればすぐにシーカーが飛んでくるだろう。彼らの警戒が解けるまでは大人しくする他ないのだ。
(シャドウを使って光のおこぼれに預かろうとする愚民を片付ける、それはそんなにいけないことだというのだろうか)
シーカーが問題視しているのはシャドウを用いた点。それ以外は特に干渉する気などなかった。シーカーにいるというアークウイングの内通者からは試験の妨害を行ったという連絡があったが、誰一人殺せていないのではフラニーも留飲が収まらない。
そんなもやもやを抱えながら、いつもの日課であるポストの確認をフラニーは行った。入っているのは新聞と接待の手紙くらいであった。彼女は中身を一切確認することなく、主人であるエルヴィン卿へ持っていく。
エルヴィン卿は妻を亡くしてからというもの、家のメイドを手籠めにしては朝まで遊んでいるという始末だ。そのメイドにフラニーが入らないのは、顔の傷のせいだろう。この傷はかつて住んでいた家に押し入った強盗が付けたもので、それ以来フラニーはジンの様な盗人、ひいてはネクノミコの貧民を強く憎んでいる。
女として見られないなら、体だけでも求められた方がマシだ。先日の計略で殺し損ねた貧民達への憎しみは募る一方だった。特にジンという盗人を目の前で逃すことになってしまったことが不服であった。
高鳴る感情を抑えつつ、フラニーは主であるエルヴィン卿に配達物を渡しにいく。きっと、いつもの様に寝室でメイドと過ごしているのであろう。もはやフラニー以外のメイドを一通り抱いて恥じることの無くなった主人に、遠慮はいらなかった。屋敷に入ると一直線に寝室へ向かい、扉をノックする。
「ふむ、フランチェスカか」
「本日のお手紙です、ご主人様」
一応、向こうから扉を開けるのを待っておく。エルヴィン卿はガウンを着て扉を開ける。奥のベッドは見ない様にする。そして配達物を差し出すと黙って引き返す。仕事の無い日は昼までメイドと遊ぶのがエルヴィン卿の過ごし方だ。
「フランチェスカ」
「はい?」
しかし、珍しく呼び止められる。遂にメイド達に飽きて自分の番が回ってきたか、と少し覚悟を決める。主人の息子、アルマならいつでも身を捧げる覚悟が出来ていたが、まさか主人から呼び止められる日が来るとは思ってもみなかったのだ。
「お前宛てに手紙が届いているぞ」
「私に……ですか?」
しかし、呼び止めたのは配達物の中に彼女宛ての手紙が混じっていたからであった。フラニーは少し安心してその手紙を受け取る。その内容が、彼女の運命を大きく変えるとは想像も付かないまま。
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ジンは荒野に出かけると、サボテンを探した。植物に馴染みの無い惑星で育ったジンでもサボテンがいかなる植物かは知っている。あの緑でトゲトゲした植物が実を付けるとは思わないが、きっとギアズのサボテンは違うのだろう。カノンが言うには赤い実らしいが、果たしてどんなものだろうか。
「これじゃないだろうな……」
中には背の高い見たままサボテンですという様なサボテンがあった。しかし、赤い実は付けていない。
「あった。あれかな?」
その中に、彼の腰辺りの高さの、丸いサボテンがあった。頂点に赤い実がいくつも生っており、これがカノンのいうギアズサボテンの実であることは容易に理解できた。
「もらうぜ」
ジンは誰かに断りを入れて、その熟した実だけをもぎ取って籠に入れる。これを籠いっぱいになるまで繰り返せばいいので、簡単な仕事である様に思われた。
「おや?」
しかし、辺りのサボテンを見ると根こそぎ刈り取られているではないか。サボテンの実が、熟していないものまでもぎとられている。これは一体誰の仕業か。ジンは荒野に微かに残った足跡を追ってみた。
「あいつら……」
すると、フェアウルフがギアズサボテンの実を見つけた端からもぎ取っているところに出くわした。加えて彼らは子供と思わしきギアズシカを何体も引きずっており、狩猟も行っているとみえた。だが、子供を狙ってはシカが枯渇してしまう。ジンも狩りのルールはヘッケラータウンで教えてもらった。大人だけを狙うのだと。
土地を狙うばかりか、こうして人々の大切な資源を占有するのが亜人種と人類の分かり合えない点である。シーカーが勢力的に優勢であるフェアウルフと組まずアニマと組んだのは、環境を守るためでもある。
「よし、斃すか」
このままではギアズサボテンは愚か、周囲のギアズシカまでいなくなってしまう。ジンは剣を抜き、フェアウルフの撃破を試みた。籠を置き、剣を抜いて戦闘態勢を整える。
「行くぞ!」
敵は三匹のフェアウルフ。まずは一気に飛び出し、奇襲をかける。上から剣を振り下ろして袈裟斬りにし、数的不利をまずは極力減らす。下ろした剣を上に持ち上げ、返す刀で二匹目も切り裂いた。
「さて、残るはこいつか……」
ジンは残された一匹のフェアウルフを睨む。さて、どう料理したものか。状況をようやく飲み込んだフェアウルフは顔を天に向け、口を大きく開いて遠吠えをする。これは仲間を呼ぶために行うことだ。しかし、それはさせない。ジンはその大きく隙が出来た喉に剣を突き刺し、トドメとする。
「よし……」
ギアズに来てから数か月、随分とフェアウルフ狩りも慣れたものである。特に最近はガントータスという死線を超えたおかげか、随分と心に余裕が出来た。
「まずいな、今の遠吠え、聞かれてなきゃいいけど。さっさと離れるか……」
ジンはフェアウルフの持っていたギアズサボテンの実を奪うと、籠を持ってその場を離れる。三匹を奇襲で倒したのはいいが、あの遠吠えでそれ以上の数が押し寄せたらたまらない。ジンは冷静に状況を見定めていた。
「ん?」
離れる瞬間、眩い光とシャッターの様な音をジンは聞いた。しかし、ネクノミコを離れて警戒心の薄れている彼は特に気にすることなく家路に着いた。
ヘッケラータウンのシーカーズカフェに帰ると、ちょうどクインも帰宅していた。氷霧も一緒におり、仕事終わりの休憩をしているところだ。
「おー、ジン、どこ行ってたんだ?」
「ちょっとギアズサボテンの実をな」
そんなわけで合流した三人。ジンと氷霧は久々に会うこととなった。彼女はジンに労いの言葉を掛ける。
「シーカー試験、お疲れ様」
「ああ、ほんと大変だったぜ」
思い返せば返すほど大変な目にあったとジンは思う。フェアウルフの襲撃くらいではもう動じない心構えが出来ている。数か月前までは最弱のポーン級シャドウに出会っても必死に逃げていた人間が随分と変わったものだ。
「シーカーにはなれそう?」
「どうかなぁ……ああいう試験初めてやるし……」
手ごたえを聞かれたが、学校に行ったことの無いジンには試験の手ごたえなど分からなかった。しかし、ガントータスというハプニングを乗り越えたのだから決して印象は悪くないだろう。一番問題視されていた面接も何とか乗り切った。
「そう……だったら、落ち着いて来たしあなたに頼みたいことがるの」
氷霧はジンに、ある頼みをする。これはジンにしか、出来ない仕事だと言わんばかりに。
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