弐・視其行歩、竊鈇也。顏色竊鈇也。言語竊鈇也。動作態度、無爲而不竊鈇也。



 俺は子供にきつく怒ったりはしねぇ、子供のうちにいろいろ失敗することが大切なことも多い。逆に失敗一つせず生きてきた人間ほど脆いもんはねぇ、失敗して、学んで生きるのが人ってもんだ。


 だからといって何でも許される訳じゃねぇ、咎められることでしか分からないこともある。そういうことだけは大人が言ってやらなきゃならん。今回みたいに、声一つ掛けてくれれば問題ないことが、子供にとって一番気づきにくい。罪にはならないが人の心を害する事っていうのは結構あって、そういった線引きの難しい件が揉め事の原因になる。


 今日絶対に薪を取らなきゃいけないということではない、機会は後にもあるだろうし。取りあえず、隣の息子の様子を見てみて"やさしく"聞いてみることにしよう。


 ――――――――――――――


 夕食の支度もできたし、様子を見てみるとするか。斧を持っていたら確実だし、持っていなかったら明日にでも伺おう。


 さて、と言いながら戸を開けて外に出る。

 すると、ちょうど目の前に隣の息子がいた。


「こんばんは」


「あぁ、こんばんは」


 礼儀正しくていい子だ。村の子供たちの中でもしっかりしている方だし、おさも信用している。(孫の婿に欲しいとか言ってたなぁ)


 そういえば斧を持っていない。

 何処かに置いてきたのだろうか?


 しかし……

 あの歩き方、いつもよりも速くないか?早くこの場を立ち去りたいから速く歩いているんじゃないのか……斧を勝手に持って行ったから後ろめたくて気まずいとか。


 しかも少し顔色が悪い、斧を持って行って俺に怒られるのではないかと不安になって青ざめたとか?さっきの挨拶も『挨拶だけしてさっさと帰ろう』と思っていたから先に切り出してきたんじゃないかと思えてきた。


 きっとこいつも反省しているのだろう、なんだか斧を持って行ったことを恥じているようだし。しかも今は斧を持っていないときた、また日を改めて聞いてみるとするか。




 *


 行歩こうほを視るに、ぬすめるなり。

 顔色も鈇を窃めるなり。言語も鈇を|窃めるなり。

 作動、態度、なすとして鈇を窃まざるは無し。


 *

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