故事成語を小説風に

南総 和月

矛盾

壱・ 楚人有鬻楯與矛者



 戦があれば武器が売れる。


 戦とは商人あきんどにとって一獲千金の好機、旨くいけば国を相手に商売ができる。各地で行商をするものはこぞって集まり、自慢の品々を街で売ろうとやってくるものだ。そして、巷に溢れる商人の中に一人の男も混ざっていた。


 その男は中国東部の楚に生まれ、楚で育ち、楚を拠点に行商をする武器商であった。彼の眼は節穴という程ではなかったが、時々珍妙な品を仕入れる癖があった。そのような品の多くは客が気づくことなく買っていったものだが、恐らくは彼の商才が補完していたのだろう。彼は今回も自信満々に得物を引っ提げて一つの町を訪ねていた。


「この町は活気があるなぁ」


 荷車をズルズルと牽きながら周囲を見渡し、人の行き来が多い路を歩く。古今、戦の絶えぬ世にて民草は疲弊し、多くの国が衰退していた。しかしながら、この町は染布の衣服を着た婦人も多く、市場に並ぶ品も新鮮で種類も豊富であった。商人が集まりやすい地であるが故のことなのだろうが、町の治安もよく住民も温和であるようだ。


「ここでも一儲けさせてもらおうか!」


 その男は決意めいたものを心に定め、荷車を路肩に寄せたのだった。


 *


 楚人に盾と矛とをひさぐ者有り


 *

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