肌から伸びる人間都市

ちびまるフォイ

この街はきっと人の力でできている

「お、御社の社会貢献の精神に憧れて、その……。

 そのいしずえになれればと思いまして……」


「ダメダメ。不採用。そんな心にも無いこと言われてもねぇ」


面接の帰り道はため息ばかりが出た。

子供の頃に夢見ていたあこがれの職業にもなれず、

今ではもう自分が何にになりたいのかもよくわからなくなっている。


「……ん?」


手首でも切ってやろうかと確かめたとき、

ぽっこりと小さな飛び出しがあった。


「なんだろう」


気にしないまま放置した翌日に変化が出ていた。

ぽっこりと飛び出した部分が高層ビルになっていた。


「なんだよこれ……夢でも見てるのか……?」


よくよく見ても手首のつけね当たりからミニチュアビルが建っている。

服を着ても不自然に袖口の部分が盛り上がる。


しかも押すと硬い。


「ま、マジでビルっぽい……」


日が経つにつれ、手首に生えたビルの周辺には家が生え始めた。

手首近辺は都市部のように賑やかになっている。


さすがに怖くなり病院に行ったところ医者は首をひねった。


「幻覚じゃ……ないですよね」

「それ医者が言うことじゃないですよ」


治療方法もわからないので、詳しく調べてみることに。

病院の設備で皮膚の上に立ち並ぶ住宅街をズームしてみる。


「……人がいますね」

「えっ!?」


モニターを確かめると皮膚の住宅街には人が済んでいた。

肉眼ではとても見えないがビルにも出入りしているのがわかる。


「ダニとかノミには見えませんし……二足歩行してますし」


「なんとかできないんですか!?」

「なんとかするにもわけがわからなくって」


調査するから、ということで病院を追い出された。

俺はアッツアツの熱湯風呂を入れると覚悟を決めて飛び込んだ。


「熱っっつ!!!」


歯を食いしばりながら肩まで浸かる。

しばらくすると水没した皮膚の建物からゴミのような点が浴槽に浮かんだ。

これが俺の皮膚にいた小さな人間たちだろう。


「これ以上、俺の肌の上で好き勝手させるか!」


やけど寸前になるまで煮沸消毒した後、その日は安心して眠った。

翌日手首から始まる肌上の都市は成長してなかった。


「よかった。昨日のが聞いたんだな」


椅子に腰掛けて一息つく。

やけに椅子の背もたれが遠く感じる。

ジャストサイズなはずなのに服からおへそが出てしまう。


違和感を感じて風呂場の鏡に自分の背中をうつした。


「うそだろ……」


背中には高速道路が走り、いくつものビルが生えていた。

手首なんか比にならないほどにたくさんの建物が背中にできていた。


「うあああ!!」


半狂乱になって壁に背中をうちつける。

高層ビルなど背の高い建物はニキビを潰すような音でぺしゃんこになる。

それでもまだ住宅街や皮膚をかけずる人間たちは残る。


昨日あんなに熱湯をガマンしたというのに。


「やってやる! こうなったら徹底的にやってやるからな!!」


整形外科に駆け込んで背中を見せると、

事情をさっした医者はすぐさま皮膚の切除を行った。


皮膚の土台ごと切り離された肌都市を確かめると足で何度も踏み潰した。


「はぁっ……はぁっ……これでもう大丈夫……!!」


今度いつ肌から建物が生えてくるかわからないので、

1日に3回以上風呂に入っては消毒と洗浄をかかさなかった。


毎日自分の身体をチェックして、

建設予定地の立て看板が肌にできてようものなら

すかさず指で潰してそれ以上発展させないように気をつけた。


それからというもの、肌の上にビルや家ができることはなかった。


今ではそのことも笑い話として友人に話せるほどに落ち着いた。


「一時期はもう恐怖しかなかったけど、今はもう大丈夫」


「しかし、皮膚の上に都市ができるなんて信じられないな」


「もうこの話はやめにしようぜ。もうすぐ料理も来るし」

「お、きたきた」


注文していた料理がテーブルに並ぶと待ちきれずに口に運ぶ。



「……ん?」


飲み込もうとした食べ物が喉の手前でとまった。


「どうした?」


「なんだろう、小骨がひっかかってるみたいに……。

 喉の奥になにか引っかかってる?」


ごはんを飲み込もうとしても、水を飲んでも、その異物に引っかかる。

スマホのカメラで大きく開けた自分の口内を確認した。


「の、喉に……喉にビルが……」


食堂の入り口。

下の付け根に高い高層ビルが建っていた。

それが喉に入る食べ物の障害物になっている。


身体の表面から都市ができることはなくなったが、

今度は身体の内側から都市が生まれていく。


「もうやめてくれ!!」


もはや対抗する気力も失って、家にこもって天井を見つめるだけの日々になった。


「ああ……俺はこの先どうなるんだろう……」


身体の内側都市は発展を続けている。

口内だけでなく、胃からも住宅街が広がり、皮膚の外から見ても異物がわかる。


なにもかも諦めてただ寝転がっていた。

じっと天井を見つめていると、天井の模様が人の顔に見えてくる。



 ・

 ・

 ・



数日後、その家の前を親子が通りかかった。


「お母さん、見てーー。おっきなおうちだよ!」


「本当ね。でも変ねぇ、工事なんてしていたかしら?」

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