第9話 初クエスト

意気揚々と掲示板に向かうと、冒険者が沢山いる中で見た事のある頭が見えた。赤髪で髪がとんがっていた。


「げっ、あいつまさか……」


恐る恐る近づいて、横顔を見ると案の定あいつだった。避けようかと思ったが、なんとあいつから話しかけてきた。


「お前、合格したんだな」


まさか話しかけられるとは思わなかったため、少しおどおどしてしまった。


「う、うん。なんとかね」


「お前、名前なんて言うんだ?」


「僕はベラ・バール、君は?」


「俺は……ソルディだ」


話してみると割と良い奴なのかもしれない。そう思っていた僕が馬鹿だった。


「いやぁ、まさかお前が合格するとは思ってなかったぜ。弱そうだったからな」


急に煽ってきた。煽り返そうか迷ったが、とリアルさんの言葉を思い出して、我慢した。


「そ、そうかな?」


「まぁせいぜい死なないように頑張るんだな」


さすがにムカついてきたので、こいつを超えてぎゃふんと言わせようと思い、ある秘策を思いついた。


「ねぇ、提案があるんだけど、いい?」


「なんだ?」


「僕と競走しようよ。どっちが早く青銅帯に到達するか」


「競走か。それで、俺にはどんなメリットがあるんだ?」


メリットは……そうだ。


「勝った方は、なんでも言うこと一つだけ聞く」


それに反応してソルディの顔が少しピクっと動いた。


「おぉ、面白いじゃねぇか。でもそんな提案するということは、お前何か企んでるな?」


図星だ。必死に否定する。


「そ、そんなことないよ。ただ、君の力を見たいだけだよ」


「ふーん」


バレバレの嘘の言い訳にソルディは眉をひそめ、怪しんでいるが、怪しんでも仕方が無いと思ったのか、それをやめた。


「分かった。その提案、乗った!」


僕とソルディは握手をすると、それぞれに合ったクエストを受けた。







僕が受けたクエストは、銅帯の赤のクエストで、薬草採取だった。地味だが、早く青銅帯に上がりたかったし、安全に進められるからこのクエストを選んだ。


薬草の生息地は王都ヘクトより西に進んだ[オード森林]だ。


今回依頼された薬草は[メディキナ草]というこのオード森林のみ採取されるという純度の高い白い薬草だ。数は二十集めればいいとのこと。


オード森林に着くと、早速森林内部に進み、目当ての薬草を探し始めた。その間、魔物が襲ってこないか注意しながら捜索を進める。


「なかなか見つからないなぁ」


メディキナ草は光が当たらないところに生息する草で、腐敗により穴の空いた木の幹の中で発見されることが多い。見落とさないよう注意しながら見ていく、が、全く見当たらない。


「全然見当たらないなぁ。どこにあるんだ?」


草を、枝を切り分けとんとん進んで行った。





「あ、あった!」


探索からおよそ二時間半程でようやく見つけることが出来た。空を見てみると日が落ち始めていた。見つけた薬草はかなり大きい大樹の幹の中だったので一箇所に複数生息していて、楽に採取できる。


「ふぅ、やっと見つけられた〜」


薬草に近づき、一つづつ丁寧に摘み、背負っている木のかごに入れていく。。採取自体は五分ほどで終わった。


「さて、お目当ての薬草も採取出来たし、帰るか」


僕が振り返り帰ろうとした瞬間だった。


大樹の後ろに一匹の魔物がいることに気づいた。


目を凝らし、よく見てみると右手に錆びた斧を持っており、不気味な笑みを浮かべた緑色の魔物、ゴブリンだった。


「あれは……ゴブリン!?」


ゴブリンとは武器を持った人間より身長が低い、人型の魔物である。知性があり、武器や防具を自分たちで作って群れを成して生息する厄介な魔物だ。難度で、討伐するには青銅帯の実力がいるといわれている。


しかし、僕にそんな実力はないので逃げることを選択した。


「な、なんでゴブリンがこんな所に!?しかも一匹だけだし……。いや、そんな事考えてる場合じゃない!に、逃げなきゃ……!」


振り返り、全力で逃げる。


僕が逃げたことに気づき、全速力で追いかけてきた。


「キヒヒヒヒ!」


不気味で陰湿な笑い声を上げ、斧を振り上げ追いかけてくる。


「はぁっはぁっ……。はっ、速い……!」


ゴブリンは小型故にすばしっこく、足が速いことで有名だ。徐々に距離が縮まっていく。


「はぁっ……やっ、やばい!」


そしてついには追いつかれてしまった。


「ヒヒヒヒヒヒィ!」


剣を抜き、防御しようとしたが、もう間に合わない。振り上げていた斧が振り下ろされる、その瞬間だった。


「亜人斬り!!!」


右から来た冒険者が剣でゴブリンの左腕を斬り落とした。


「グオオォォオオオ!!!」


痛みでゴブリンが倒れた。その冒険者はすかさず頭に剣突き刺し、トドメをさした。血が広がり、草や花に染み込んでいく。


その冒険者の顔を見るとなんとソルディだった。


「き、君は……ソルディ!?」


驚いて


「な、なんで君がここに!?」


「いや、俺が受けたクエストがウィールドゴブリンの討伐だったんだよ。いや、そうじゃなくてお前もなんでここにいんだよ!?」


「え?い、いや僕は薬草採取のクエストで……。ていうか、さっきのスキルは何?」


助けに来てくれた時に叫んでいたスキルだ。


「あぁ、亜人斬りか。戦士なら誰でも持ってるスキルだぞ」


「え、ソルディって戦士なの!?」


「あぁ、そうだがそれがどうした?」


「いや、てっきり冒険者っていう職業かと…」


それを聞きソルディは大笑いした。


「ははははは!! 馬鹿じゃねぇの!? 冒険者って職業じゃなくてただの括りだぜ!?」


ムカつく。でも助けてくれたことには感謝しないといけない。


「と、とりあえず、助けてくれてありがとう!」


「れ、礼なんかいらねぇよ。クエストの一環でたまたま助けただけだ」


頭をポリポリかきながらそう言った。


「あ、じゃあ僕はもう帰るね!」


「え、お前もうクエスト終わったのか?」


「うん。薬草採取だけだし」


「お前ずるいな。そんなのすぐ終わるじゃねぇか」


「そりゃ勝ちたいもん。早く終わるクエスト選ぶよ」


「ちっ。さっさと行けよ」


「じゃあ頑張ってね!」


「はいはい」


手を振り、僕はその場をあとにした。







王都に着く頃にはすっかり日が沈んでいた。直ぐにギルドに行き、クエスト達成のことをマイスさんに伝えた。


「く、クエスト達成しました!」


「あら、ベラ君。お疲れ様でした。クエスト用紙と目的の物を出してください」


僕はカバンに入れていたクエスト用紙と、背中に背負っているカゴをカウンターの上に出した。


マイスさんがクエスト用紙の内容と薬草を確認している。


「はい、確かに達成されていますね。お疲れ様でした。こちらが今回の報酬額になります」


マイスさんがそう言うと、銀貨一枚を渡した。


「ありがとうございます!」


「あ、銀貨一枚なので宿屋へベルグに泊まれますよ」


「銀貨一枚からなんですね。ありがとうございます。早速行ってみたいと思います。」


「はい。お疲れ様でした」


まいすさんもお辞儀をしたので慌てて僕もお辞儀し、ギルドを後にした。







外に出ると、いくつもの星が空に輝いているのが見えた。ふと、村のことを思い出した。


「綺麗だなぁ。寝る時、いつも星空見てたっけ」


懐かしく思いながら、僕は宿屋へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る