〇二八
君は少し歩き回った末に、里の隅の方に小さな酒場を見つける。
この里では宗教的戒律のせいかあまり流行ってはいないようだ。
しかし、その寂れた見た目に反し、中からは随分と賑やかな笑い声が聞こえる。
「漢(おとこ)ロヴァルト=フェイク、魂の一杯いかせていただきます!」
「だーっはっはっはっは! 良いぞぉロヴァルト! 漢の呑みっぷりはそうでなくっちゃあな!」
「ちょっとゴシウ! あんまり呑ませ過ぎちゃ駄目よ」
君は、相棒ロヴァが何者か達と楽しく酒を酌み交わしているらしいと踏み、酒場に乗り込むことにする。
ロヴァは小さな卓を囲んで、見知らぬ二人の男女と盛り上がっている。
一人は精悍な大男で、もう一人はそのパートナーらしい妖艶な美女。それぞれ独特の戦闘装備を纏っていることから、君たちと同様に冒険者なのだと推測できる。
「よぉ、相棒も来たか! この人たちを知ってるか!? なんとあの『お騒がせ冒険者』のゴシウ=ギルデンスターンさんとドロエ=ローゼンクランツさんだ! 俺たち今、伝説の冒険者たちに会ってるんだぜ!」
陽気なロヴァの言葉に、大男は照れた様子で首を振る。
「伝説だぁ? 馬鹿言っちゃいけねぇよぉロヴァルト! 俺っちたちはやりたいことをやりたいようにやってるだけ! 同じ冒険者同士で気を遣う事なんてねぇのさ!」
大男は豪快に笑い、君に向けて杯を掲げた。
「俺っちはゴシウ=ギルデンスターンだ。で、こっちが女房役のドロエ=ローゼンクランツ。よろしくな」
豪快に笑うゴシウの傍らで、美女が呆れた様子で足を組み替える。露出した下腹部に『マダラメイアのしるし』が浮かんでいた。
「『女房役』じゃなくて『女房』だろう。ったく、この冒険バカは」
『お騒がせ冒険者』のギルデンスターンとローゼンクランツ。
冒険者業界の生ける伝説。
廃都ドラクロイツの調査やグリムラドォル島でのトレジャーハントで名声を築いた彼らは、同時にクライアント泣かせな点でも有名だ。
持ち帰った宝に呪いがかかっていたり、同行者が変な病気にかかっていたり。
あるいは同業者と後々まで禍根が残るような凄惨な殺し合いをしたり。
そういった災いを引き連れながらもさらに危険な冒険に挑むところに、彼らの伝説たるゆえんがある。
「そう言えば、もうすぐ聖導教会が攻めてくるそうじゃないか。今回の冒険はまた楽しくなりそうだぜ」
ゴシウの豪胆な笑みに、君は危うさと頼もしさ、相反する二つの側面を感じ取る事だろう。
君はその後しばし同業者同士の語らいに熱中することになる。
「ん、もう少し辺りを回るのかい相棒? 気を付けてな」
酔った様子のロヴァは、もう少しここで『情報収集』を続けるようだ。
【〇二〇】に戻りたまえ。
【https://kakuyomu.jp/works/1177354054888453186/episodes/1177354054888479166】
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