第一話:Seek

集結

プロローグ

 とある世界の小さな国、リトラディスカ。「小さな円」という意味を持つこの国は、その名の通り、中央の都市をいくつかの地域がぐるっと囲んでいる。その中心には、国を統治する王家の大きな城がそびえ立つ。この地域を中央部と呼び、国の重要な建物や企業の本社が集まり、人口も最も多い。

 そして、リトラディスカは地域ごとに四季を表している。北西には、寒冷地のクスモがあり、国境辺には雪山が並んでいる。北東には、春の陽気に包まれたトロアがあり、中心には清らかな泉が湧いている。南東には、温暖なチックがあり、国境付近のジャングルのような山から国最大の河川が流れている。南西には、涼しい風の吹くカンドがあり、その西方では時折噴火する火山が威光をたたえている。


 ディアは売り物を袋にまとめ、籠を背負い、まだ夜が明けて間もない中央部の街に繰り出した。

 散歩をする老人や朝市に向かう主婦、犬を連れた少女や郵便配達の少年などで、もうすでに街は賑わっている。

「お兄ちゃん、なんか面白いものある?」通りかかった子供が眠そうな目をこすりながら見上げた。

「う~ん、昨日と変わらないかな……。あ、かわいい小皿が入ったけど、見る?」

 ディアは袋を広げて、花の形をした皿を取り出す。子供は不思議そうに眺めまわしていたが、あまり興味がなかったのか、こちらに返して、市場へと去った。

 それを見送った後、自分がいつも店を広げる場所まで歩き、ゆっくりと腰を下ろして、袋の中身を並べ始めた。

 ディアの1日は、いつもこんな感じで始まる。こうやって、袋の上に並べられた品物を、道行く人に見てもらい、購入してもらう。

 今日は結局、小皿を数枚、ろうそくを3本、小刀一丁を売り、1日を終えた。全部でおよそ1500エスク。まあまあの売り上げだ。


 家に帰ると、すぐにラジオを付けた。相場を確認し、商品を決めるためだ。

「K社の小瓶 1つ200エスク。D社のカップ 1つ150エスク。……」

 明日は小瓶でも仕入れてみるかな。そう考え、ラジオを消そうとしたとき、速報が飛び込んだ。

「今日昼頃、南西部のカンド火山に、ケル族とみられる男が侵入し、火山噴火装置を設置しました。さらに、南東部のチック川の上流に、同じくケル族の女性が、水を干上がらせる薬を投入したため、現在、チック川の流れが途絶えています。このままの状態が続けば、国は大変な水不足となるおそれがあります。さらに、ケル族が声明を発表し、リンキー・クロナを使用して噴火装置を起動させる、と王家に文書を送りつけました。警察では詳しい内容を調べています。」

 ケル族――その言葉を聞いた瞬間、ディアの表情がこわばった。恐ろしいことが起きる。奴らにかかれば、リトラディスカが滅亡してもおかしくない。否、もうすでにその道を辿り始めている。チック川が干上がり、さらにカンド火山が激しく噴火したら、誰も生き残れないだろう。なぜ今、ケル族はこんなことを始めたのか。もうすぐ、建国300年祭が行われ、ようやくリトラディスカも活気づくというのに……。

 いろいろな考えが脳内を駆け巡り、その夜はほとんど眠れなかった。


 翌朝、ディアはもう一度ラジオを付けた。続報が入っている。

「チック川の干ばつに加え、火山が大噴火したら、リトラディスカを守ることは大変困難となります。しかし、それを止める方法が、たった1つだけあります。リンキー・クロナを、ケル族よりも先に見つけ出すことです。その力をもってすれば、噴火を食い止めるだけではなく、チック川の清流を甦らせることも出来るでしょう。国を守る手段は、これだけです。

 きょう未明、ジラ王妃が勅令を出しました。

『正直、時間がありません。一刻も早く、クロナを見つけ出し、ケル族から世界を守りましょう。見つけた方には、どんな願いでも叶える魔法の指輪を、褒美として差し上げます。皆さん、ご協力をお願いします。』」

 その後、専門家がクロナについての見解を述べた。

「リンキー・クロナは、今どこにあるのか、はっきりとした情報はありません。存在しているのかどうかすら、疑わしいとする説もあります。しかし、クロナをもってしか、我々が救われる道はありません。最近の研究によると、クロナは秘境の奥深くに、埋蔵されているということです。簡単な事ではありませんが、私たちにも見つけ出すことはできるはずです。もし、クロナ探索にご協力いただける方がいらっしゃいましたら、1週間後の正午、王家にお集まりください。詳しい情報や作戦などの打ち合わせを行います。」

 ディアは黙考した。自分に出来ることは何か。しがない行商人でも、何か力になれるのではないか。ディアはリトラディスカを心から愛していた。豊かな自然、温かい人々……すべてが愛おしかった。そして、リンキー・クロナ……伝説は何度も聞いていた。興味もあった。

 その力で、この国が救えるのなら……。


 決心した。クロナを探し出そう。褒美のためではない。名誉の為でもない。ただ、リトラディスカを守りたいという衝動が、彼を突き動かした。


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