第一章 朝倉勇 編

プロローグ

 上ノ木町にあるカムライ教本部。そのホールに集まった大勢の人たちが教祖である杏奈あんなさんの登場を今か今かと待ちわびていた。今日は一体どんな“予言”を聞かせてくれるのかとホール内がなざわめきに包まれていた。


 そのざわめきが杏奈さんの登場でピタリと止んだ。ステージ脇から表れた濃紺色の法衣に身を包んだ彼女が、中央に置かれた演台に向かってゆっくりと歩いていく。演台の数歩手前で立ち止まり奥の偶像に向かって一礼する。それから演台に立ちホールに集まった人たちを見渡す。


「本日は皆さんに大切なお話があります!」


 澄んだ力強い声はマイクを通さずともホール内に響き渡る。


「心苦しくはありますが、今回の予言が最後となります!」


 唐突すぎる杏奈さんの言葉に会場内がどよめいた。


「静粛にお願いします」


 スタッフの人のたしなめる声がスピーカーを通して聞こえてくる。一度の注意ではどよめきは収まらず、スタッフの注意が数度繰り返されることで再びホールに静寂が戻る。


「今回の予言は2つ。まず最初は……」


 杏奈さんは目を閉じゆっくりと息を整える。そして、目を開き、


「今年の7月21日、わたくしはこの世を去ります!」


 杏奈さんの言葉には強い意志のようなものが込められていた。


 ホール内の人たちは理解が追いついていかないのか、シンと静まり返えった。しかし、それもしばらくのことでホール内は割れんばかりの声に包まれる。


「なぜ!?」「どうして!?」「理由は!?」


 そういった言葉が杏奈さんに投げかけられる。しかし、当の杏奈さんは目を閉じて静かに佇むばかりでそれらの疑問に対して何も答えようとはしなかった。


 再度、注意を促す放送が入った。会場の喧騒が落ち着くと杏奈さんは次を語りだす。


「突然のことに混乱していることでしょう。それはわたくしも同じなのです。ですが、これは予言です。この決定には何人なんびとであろうと抗うことはできません」


 そこで一旦区切り、杏奈さんはしばらく沈黙した。


「では、次の予言です――」


 その予言にぼくは自分の耳を疑った。おそらくこの場にいた全員がそうだろう。それは、とてもじゃないけど信じられない内容だった。


 ――きたる、10月13日。世界は終りを迎えます――

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