第123話 杏里と佑の甘い時間

「佑って、年末は実家に帰るんでしょ? 」

「どうしようかな……。元旦に帰ってもいいかな……なんて思ってるけど」

「なんで? 」

「なんでって……」


 セフレからなんとなく恋人? みたいな立ち位置に昇格した佑は、今年は恋人として初めて過ごす年末と元旦を杏里と過ごせたら! と、甘い夢を見ていた。


 実家にはバイトが忙しくて、帰れないかも……と、先に言ってあったし、特に何がなんでも帰ってらっしゃいという雰囲気でもなかった。


こっちに残るんだ。そっか、残念」

って? えっ? 残念って? 」

「佑の実家って新潟でしょ? 新潟の長岡」

「うん、そう」

「なんかね、忠直が珍しく年末に旅行に行こうって言ってて。いつもは仕事場のカウントダウンパーティーがあるから、絶対に出かけるとかないんだけどね。今年は麻衣子お姉ちゃんと過ごしたいからって、新潟に行くことにしたんだよ。で、佑も帰るんなら、新潟で会えっかなって思ったんだけど」


 まさかの、杏里が東京にいないとは?!


「いつ新潟に? 」

「三十一日かな? 一日の夜か、二日に帰るみたい。ね、雪って凄いの? 」

「まあ、凄いってか……普通? 屋根まで埋まるくらいじゃないし、道は歩けるよ。除雪がしっかりしてるから。ほら、東京だとちょっとの雪でも交通網が麻痺するけど、あっちはそんなことないし……」


 修学旅行以外旅行をしたことがない杏里は、新潟には初めて行く。忠直から新潟に行くと聞いた時は、初家族旅行だと子供のように飛び上がって喜んだ。

 麻衣子と年越ししてみたいからという忠直の理由も、杏里には大いに納得でき、二人して浮かれて旅行を楽しみにしていた。麻衣子にはサプライズだから内緒なのも、楽しさを増長させていた。

 佑の実家も長岡だし、麻衣子とも佑とも年越しを一緒できるだろうと思っていたのだ。まさかの、佑が帰らないとは思ってもみなかったが、帰らないのならしょうがない。

 初家族旅行と、初佑との年越しなら、断然前者をとる杏里だった。


「まあ、佑とはこれからもカウントダウンは過ごすチャンスはあるよね。ほら、家族での年越しなんて、初めてじゃん? それに、今まで旅行なんて贅沢できなかったしさ」


 今日初のSEXが終わり、佑の上から下りて横にゴロンとした杏里は、二回戦の前にインターバルを入れる。


「いや、いや、なら帰るよ。杏里ちゃんがいないなら、こっちにいても無意味だし、同じ時期に帰るから」

「そう? なんかこっちでやりたいことがあったんじゃないの? 」


 本当に自分達って付き合ってるんだよね? と、疑いたくなる。


「二人でいたかっただけだから。カウントダウンして、二人で初詣行って……みたいな」

「ああ、なるほど……。佑は欲しがりさんだね。あたしとイベント過ごすなんて、すっごい前から予約しないとだし、割り増し料金半端ないんだぞ」


 杏里は、裸の佑の胸をツンツンと突っつく。


「え? 予約とかいったの? 」


 まさか、付き合っていて予約が必要だとは思わなかった。

 ということは、まさかクリスマスも?!


「あの……クリスマスなんか、もしかしてバイト入ってたりするの? 」

「イブイブは三人、イブは二人かな」

「マジか……」


 バイトには口出すなと言われているから、他の男に会わないでくれとは言えないが、やはり気分はよくない。いくら話したり食事するだけと言っても、ノータッチというわけではないだろうし、手を繋いだり腕を組んだりはすると聞いていた。

 自分の彼女が、クリスマスに他の男とデート……って。


「ちなみに、そういう時って、いくら払えば杏里ちゃんを独占できるの? 」

「通常は一時間一万だけど、イベント時は三万から五万かな。ほら、疑似恋人を楽しみたいおじ様達の需要が大きいから」


 それは、杏里にしても稼ぎ時だろう。全部を貰えるわけではないだろうが、歩合でやっていると聞いていたから。


「そう……」


 初めての恋人との初めてのクリスマス。まあ、一年間は何でも初めてだから、気合いが入らないわけはなく、一緒にディナーを食べてその後は……なんて、サプライズ的に予約をとっていたりした。

 それも、無駄に終わりそうな雰囲気がプンプンする。


 佑のテンションが明らかに下がり、ため息を飲み込みながらうつ伏せになり枕に顔を押し付けた。


「なになに? もしかして、一緒に過ごしたかった? 」

「……そりゃ、まあ」


 杏里が佑の上に覆い被さり、グリグリと頭を撫でる。


「佑ちゃんは杏里ちゃんが大好きなんでちゅねェ」

「あったりまえだろ! 彼女とクリスマスやりたくて何が悪いんだよ」


 起き上がって、今度は杏里の頭をかき回し、二人して髪がぐちゃぐちゃになる。


「悪かないよ。あたしだって同じだもん」

「だって、バイト入れてるんだろ? 」

「ランチと午後ね。五時以降は予約入れてないよ」

「じゃあ……? 」

「ウフフ、稼ぎよりも佑を優先したんだから、すってきなクリスマスにしてね」


 バチンと綺麗なウィンクを決めた杏里は、佑の上に馬乗りになり、二回戦に突入する。


 とりあえず、クリスマスも年末も元旦も、杏里と過ごすことができそうだ。





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