勘違いにもホドがある!

由友ひろ

ファーストシーズン

第一章

第1話 大学デビュー

「まい、今日もクラブ行くっしょ? 」


 大学の同じ講義をとっている美香みかが声をかけてきた。


 三条美香さんじょうみか、大学に入ってからの友人の一人だ。ミニスカートに赤いパンプス、茶髪はいい感じにうねっており、派手目の化粧をバッチリきめている。日に焼けた肌は、アウトドアによるものではなく、人工の産物だ。


「ごめーん、今日はサークルに顔ださないとなんだ。新歓コンパなのよ。来週はぜ~ったい行くから」

 麻衣は手を合わせてウィンクすると、帰り支度を始めた。


 大学に入って一ヶ月、なんとなく生活のリズムができてきていた。友達もできて、仲良しグループみたいなものも形成されつつあった。


 徳田麻衣子とくだまいこ、見た目的には美香と何もかわるところはない。

 茶髪の巻き髪に、目と眉に力を入れた化粧、胸元を強調したVネックのシャツに、可能な限り短いスカート。足長効果の十二センチヒールは欠かせない。

 最近美香にすすめられて、日焼けサロンに通いだしたため、まだ夏前なのに小麦色の肌をしていた。


 麻衣子も美香も、いわゆる派手目なグループに所属していて、回りからもみな同類とみなされていた。


 ケバくて、派手で、うるさい。夜遊びに命をかけて、夜な夜な男を引っかけている……いわゆるヤリマンの集まり。男の子達からはチラチラ見られ、女の子達からは眉をひそめられる。そんなふうに見られているグループである。


 実際、麻衣子の友人達は、週末になるとクラブに出没しまくり、男をお持ち帰りしているのだから、見た目通りではあるのだが……。


 しかし、実は麻衣子は大学デビューであった。

 高校までの麻衣子は、黒髪お下げで化粧のケの字もない地味で普通の少女だった。

 もちろん、男性経験0。異性と付き合ったことすらなかった。


 そんな麻衣子は、大学では変わるんだ! と強い信念のもと、今の見た目を手に入れ、なんとなく似た見た目の友人達に囲まれ、派手! なグループの仲間入りを果たしたわけである。バイト三昧で、夜遊びに付き合ったのは一回しかなかったが。


 麻衣子はヒールをカツカツ鳴らし、部室棟に向かった。

 麻衣子が所属していたのは、テニス・スキーサークル( TSC )。つまりは、楽しく遊びましょうというサークルだ。


 大学生活で、サークルというものに多大な憧れを抱いていた麻衣子は、入学当日に勧誘されたTSCに悩むことなく入った。勧誘してきた先輩達が、凄く都会的でスマートに見えたからというのも、即決した理由の一つである。


「まいちゃん、早いじゃん。集合は五時だよ」


 部室では、三年の西田拓実にしだたくみが雑誌を読んでいた。

 いかにも爽やか系の先輩は、女子に人気絶大で、最近彼女と別れたという噂から、みな彼を狙っていた。


「ラッキー! 早く来て大正解でした。先輩、何読んでるんですか? 」


 麻衣子が覗き込むように雑誌を見ると、拓実は爽やかに微笑んで、一緒に見る? とソファーをずれてくれた。

 麻衣子が隣りに座ると、凄くさりげなく麻衣子の腰に手を回し、麻衣子の膝の上に雑誌を広げた。


 男性経験皆無の麻衣子は、頭の中ではパニックになりながらも、憧れの拓実先輩にウブな田舎者と思われなくないから、なんでもないことのように振る舞った。


 雑誌のページをめくるとき、わずかではあるが、麻衣子の内腿に拓実の手が当たり、おもわずビクンッと反応しそうになる。


「まいちゃんってさ、彼氏とかいるの? ってか、絶対いそうだよね。凄い年上の彼氏とかいそう」


 拓実は、さりげなく麻衣子の胸元を見つつ、ほんのわずかに麻衣子との距離を詰める。


「いませんよ、やだなあ~。先輩こそ、可愛い彼女はどうしたんです? 」


 別れたとは噂に聞いたが、真実はわからないため、麻衣子は探りを入れた。


「はは、先週フラれたよ。まいちゃん、慰めてよ」


 拓実は泣き真似をしながら、冗談ぽく麻衣子に抱きついた。


「あたしでよければいくらでも!」

「まじで?! お兄さんは本気にしちゃうよ」


 拓実の左手が、ウエストから麻衣子のヒップ辺りに下がってきて、右手は太腿の上に置かれる。


「まいちゃん、生足だ。わっかいなあ! ねえ、コンパの後さ、抜け出さない? 」


 拓実が耳元で囁いた。


「二人でですか? 」

「当たり前じゃん。まいちゃんってさ、前から可愛いなって思ってたんだよね。……ダメ? 」


 拓実の手が、麻衣子の内腿を撫でる。

 痴漢意外で、そんなところを触られたことがなかった麻衣子は、心臓がバクバクしてしまう。


 スカートの中に手が入ってきそうになったとき、部室のドアが開いて数人の学生が入ってきた。


「あー、やらしい! 拓実先輩、徳田さんと二人っきりで何してるんですか? 」


 相田花怜あいだかれん、麻衣子と同じ一年生である。

 小柄で童顔ながら、Gカップ爆乳の持ち主である。


「雑誌見てただけよ」


 麻衣子は、さりげなく拓実との間に距離を作る。拓実も、いつのまにか麻衣子に触れていた手を引っ込めていた。


「私も見たいな」


 花怜は、拓実の逆側に座ると、自慢の爆乳を拓実の腕に押し付けるようにして雑誌を覗き込む。

 花怜が拓実狙いなのは、周知の事実であった。


「拓実、いいな! 両手に華じゃん。しかも、一年の双璧を独り占めはないんじゃない? 」


 三年の大西優おおにしすぐるがやってきた。彼がサークルの部長である。


「やだァッ! 優先輩ったら口がうまいんだからぁ」


 花怜は、拓実の腕にしがみついて、ねえ? と可愛らしく拓実を見上げた。確実に計算されつくした角度と仕草だ。


 ここで麻衣子が実際に男慣れしていれば、花怜に張り合ったのだろうが、麻衣子はさっき拓実から誘われたことで頭がいっぱいで、それどころではなかった。


 コンパの後抜け出すって、つまりはそういうことだよね?

 今夜、拓実先輩と初体験?!

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