ACT.47 ファースト・コンタクト(Ⅴ)


「つまり、俺たちに【“極青冠”セイリュウ】の威力偵察をお願いしたいんですね」


「その通り! 話が早くて助かる!」


 そう言ってライガは手を叩く。


「うちにもその先行クエスト参加券を入手したメンバーは居るんだけど、ほら、持って帰れる情報は多いに越したことはないじゃないか?」


「なるほど、それで俺たちを引き入れようと?」


「無論、ただでとは言わないよ。例えばそうだな――」


 ここで彼は少し考え込む。

 そして、数秒後にこう口を開いた。


「まずは、金銭的には十分な報酬を約束しよう。そして、ソレに追加でボクたち本戦で協力して戦えるってのはどうかな?」


 ソレに関して、カイトはいい条件だと思った。

 けれどこれに感じては、自分より熟練者の意見が重要だろうと思い、ナギに意見を尋ねる。


「ナギは、どう思う?」


 カイトのその問に彼女は、状況を冷静に判断して答える。


「そうですね、十分だと思います。まず私たちも、討伐戦に参加する為に、どこかの大手忍軍の傘下に、一時的に参入しなければならなかったのですし」


「そっか、そう考えるなら渡りに舟だよね」

 

 ナギの意見に、レナも同意する。

 そこでまた気になるのは、報酬の方だ。


「報酬については、どれほどになりますか?」


「具体的には、このくらい」


 そう言って、一枚の契約書を取り出しカイトたちに提示する。

 提示された契約書に書かれていた金額は、以前レナがジライヤ杯で稼いだのと遜色ないほどの高額であった。


「いっ!?」


「無論、これは準備資金兼前金。持って帰ってきた情報の有用性に応じて、成功報酬は別で支払うよ」


 その言葉に思わず目を剥くカイト、絶句するレナ、啞然とするナギ。

 これは、かなりおいしい案件だ。

 受けないという手は、無い。

しかし、だからこそカイトは腑に落ちない。

普通、この実力差、ネームバリューの差なら足もとを見られたとしても不自然じゃない。

むしろ、カイト自身はそこをどう自分たちに都合のいい条件を引き出そうかと考えを巡らせていたほどだ。

ソレが、ふたを開けてみればそんなこと必要ないくらいの好条件のオンパレード。

 カイトからすると、彼らがそこまで、自分たちに都合がいい条件を出す理由がわからない。


「――ライガさん、此処は腹を割って話しましょう」


「ん?」


「俺たちに、この話持ちかけたのって、この件とは別に目的がありますよね?」


「――。」


 一瞬、ライガの雰囲気が変わる。

 今までの親しみやすい、人の良さそうな雰囲気は鳴りを潜め、抜き身の刀のような剣呑さがその体から発せられる。

 その空気に当てられ、カイトの背筋に一筋の冷や汗が伝う。

 しかし、その空気も一瞬。

 次の瞬間には、元の好々とした雰囲気に戻り、笑いながらこう答える。


「ばれちゃったか。じゃあ、腹を割って話そう。――実は、これはある種の“お手付き”なんだよ」


「お手付き?」


「そう、君たちがこの件を受けたならその旨をうわさなりなんなりで流布して、『彼等は、ボクたちが先に見つけて手を付けたんだから、勝手な勧誘するなよ』っていうことを他の忍軍に印象付ける狙いがあったんだ」


 そういって。頭をポリポリと掻くライガ。


「だから、是が非でも受けてもらいたくて破格の条件をつけたんだ」


「――なるほど」


 そう言われて、ようやくカイトは今回の件が腑に落ちた。

 つまり、これはマーキング。

 ここでカイトたちとの関係を作って、誇示することで他の忍軍からのスカウトを牽制しようという狙いなのだ。


 だが、そう考えるとまた別な疑問が生まれた。


「――俺たちってそこまでする価値あります?」


 そう、そこである。

 カイトはプレイ歴二カ月のド新人で、ナギはプレイ歴と実力は高いもののパーティープレイに問題のあるシノビだし、レナに限って言えば――レナだし。

 そういう意味で、自分たちの価値というものは甚だ疑問が残るカイトであった。

 

「とんでもない、君たちは稀有でとても有望なシノビだよ」


 

 カイトの疑問を否定したのは、他でもないライガだ。


「まずたった三人で“予兆”の二つ名を討伐した実績だけで、十分評価に値するし、個人で見ても素晴らしい」


 そう言ってライガは、ナギとレナを交互に見ていう。


「ナギさんは、依然から高い実力を持つソロ専として有名でしたし、レナさんは、個人で完成された戦闘能力を持っています。一部では名が知れたシノビです」


 その言葉に、驚いたような表情を浮かべるナギ。

 そして「何それ知らないんだけど!?」と驚いているのははしゃいでいるのかわからないリアクションを取るレナ。


「そして、カイトさん。あなたがジライヤ杯で見せた戦いはあまりにも有名です。今、最も注目のルーキーで、渾名までついているほどです」


「まさかそこまで過大評価されてるとは――ん、渾名?」


 自分の他人から聞く評価にむずがゆいような、うれしいような気持ちになったカイトの頭を“渾名”という言葉が一瞬で冷やす。


「待ってください、なんですか渾名って!?」


「あれ、知りませんでしたか? 有名なシノビには自然と通り名的な渾名が付くんですよ」


「待ってください初耳です!?」


「え、知りたいです!!」


 ここで降ってわいた面白そうな話題にレナが食いつく。

 そのレナの期待に応えて、ライガはカイトの渾名を口にする。




「一部の界隈では【血濡れブラッドマン】と呼ばれてますよ。【血濡れのブラッドマンカイト】って」


「ふひひひひひひ!!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!」


 その中二病的ネーミングに、レナは捧腹絶倒し、カイトはかつての古傷をえぐられたような気がして絶叫した。


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る