ACT.21 凡人の牙(Ⅳ)


「――“奥義:黄泉ノ凱旋者イザナギ”ぃぃぃいいいいい!!」



 カイトが叫んだその瞬間、カイトの姿を黄金の光が包み込む。

 その光が消えないままに、彼はスズハヤにかぶさるように接近する。

 そしてスズハヤの拳を紙一重で躱し、そのまま――クロスカウンターの要領で大きく殴りつけた

 そう、殴りつけたのだ。


 光が晴れた時、そこに立っていたのは、五体満足の傷一つない万全の姿のカイトだった。


「な――!」

 そう、カイトがこの土壇場で条件を満たし発現させた、その“奥義:黄泉ノ凱旋者”の持つ能力は、“完全回復”。

 HPも肉体的欠損も含めて万全の状態に回復させる能力であった。

 それは決して、強者に勝てる能力ではない。

 だが、ソレは、強者に――頂に手を伸ばし続けるのに必要な能力。

 勝利という可能性を掴み取るために必要な能力であった。


 そしてカイトは、今得たこのチャンスを決して見逃さない。


 唖然とした表情のスズハヤに疾風のごとく駆け付け、右手のクナイを振り上げる。

 ソレに対応するようにスズハヤも小刀を持って、その攻撃を防ぐ。

 一進一退の激しい攻防が続くが、スズハヤは手裏剣でカイトを狙えない。

 何故なら、今彼らが戦っているのは超近接戦、そしてHPの残りが少なくなっているスズハヤは、先ほどのように自分をまきこんだ攻撃をすることができない。

 そして状況は徐々に、カイトが優勢に変わっていく。

 カイト自身が、五体満足で左右のクナイを持って攻撃してくるのに対し、左腕を失ってバランスのとりずづらいスズハヤは、防ぐ手数が足りなくなってきたのだ。

「なんで! どうして!!」

 そういって闇雲に小刀を振るうスズハヤ。

 しかし、ソレはかすりもせずにカイトに防がれる。

 左手のクナイで小刀を受け止めたカイトは、それと同時に右手のクナイを足元に投擲し、スズハヤの左足を地面に縫い付ける。

「くっ!」

 そうして動きを封じて、カイトは勝負を決めにかかる。

 スズハヤの懐に潜り込み、腕を水平に引き手を掌底の形に整える。

そこから下あごを目掛けて、体術:掌破が、緑の軌跡を引きながら放たれる。

体術:掌破によってかちあげられた顎、ソレに引っ張られるようにあらわになる伸びきった首に、回し蹴りが放たれる。

側転の要領で放たれる、下から半月のような弧を描いた見事な回し蹴りだ。

そしてその攻撃でよろけた反対側から、今度はだめ押しとばかりに、体術:手刀が振るわれる。

その首に鋭く振るわれた手刀は、クリティカルダメージを与える。

「が――あっ!?」

 それと同時にスズハヤの視界が大きく歪む。

 体術:手刀の追加効果である【昏倒】の状態異常が発動したのだ。

 その歪んだ視界の中で、それでもスズハヤは目の前を――自身を追い詰めるその敵を見据える。

 自分を倒す、その敵の姿を目に焼き付ける。

「おぉぉぉおおおおおおお!!」

 それでも、ただで負けるものかと拳を握って、一歩前に踏み出す。

 歪んだ視界、安定しない足取りでもなお、その闘志は揺るがない。

 ソレに答えるように、カイトもまた、強く拳を握り、踏み出す。

「あぁああああああ!!」

 お互いの拳の影が重なり合い、太陽を背に二人の影が交錯する。


 そして、永遠のような刹那の静寂が訪れる。



「――次は、僕が勝つ」



「――あぁ、待っている」


 そういって、スズハヤはその交差した戦う姿勢のまま、光の粒子となって姿を消した。

 勝者はひとり、沈みゆく廃城の夕日に照らされ、その勝利キセキをかみしめた。





 こうして、ジライヤ杯は幕を引いた。


 

 勝者は、無名のルーキー・カイト。


 この結末は、後にこの世界ゲームに大きな影響を与えることとなる。

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