そのつもり

黛惣介

 将来はフリーライターに――そして自分が思い描く、読者が面白い、楽しいと思える記事を書いていきたい。とはいえ現実は甘くはない。実際に出版社に勤務するようになって見えてきたのは、自分の未熟さ、経験のなさ――実力不足。三年目ではあるが、結構見えてくるものがある。

「まだまだ修行だね」

 梅雨明けのすっきりとした夕方、仕事を終えてまったりと、ペットボトルのお茶を飲みながら駅のホームで電車を待つ。遠くに見える険しい連山を、撫でるように進む小さな雲が可愛く見える。

 現在、澄玲すみれが任されている仕事は、旅情報誌に掲載する写真の撮影、原稿等の細かな現地確認、追加項目の取材等。媒体で記事そのものはまだ書かせてもらってはいないが、ひそかにノートへ綴ったオリジナル記事は、そろそろ二十冊目に入る勢いだ。

 確認取材等を終わらせ、翌日が休日だったりすると、決まって澄玲は現地を見て回る時間を過ごしている。これは編集長にも「修行」という名目で許可を得ている。何せ経費で訪れているのだから許可を得なければ色々とまずい。

 今日は全国でも有名な温泉街へ、撮影した写真や追加項目の確認取材内容をメールで編集部へ送信、先輩からOKをもらい、仕事は終了。これから向かう先は、予約済みのビジネスホテル。

「さあて……そろそろ返事来るかね」

 スマホを取り出し、ずれた眼鏡をなおす。タイミングばっちし、伊綱いづなからの返事が来た。

「駅前に十時集合、と」

 短い返信、そのついでに「おやすみ~」と添えて返す。すぐさま「おやすみ」と素っ気ない四文字だけが返ってくる。それを見て、いつもどおりで安心する。明日はどこを回ろうか、澄玲は考えながらホームへゆっくりと滑り込んできた電車に乗り込んだ。

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