タイトル未定

ああああ

第1話

 今年の夏は猛暑だった。それは9月も半ばに突入した今尚衰えることなく、夏の終わりを一切感じさせない、うだるような暑さと日差しが降り注ぐ。


 ベタつく肌に貼りついた制服。襟元をばたつかせて少しでも涼を取り入れようとするものの、自分の体温と殆ど変わらない外気を前に、さほどの効果は期待できない。


 煩わしさから少し乱暴に飾紐を取り出し、腰にも届きそうな自らの髪を後ろで纏め上げた。


 ――ふと、前を見上げる。


 そこには、同じ制服を着て歩く、けれど少し大人びた彼女。


 暑さの中でも凛として、涼しげで、冷ややかな彼女は、後ろからの視線に気付く素振りも見せない。


 いや、気付いているのかもしれない。気付いていながら、気にしていないだけかもしれない。どちらにせよ、少なくとも文字通りの意味で眼中にはないだろう。


 容姿端麗。明眸皓歯。羞花閉月。彩る言葉は幾らでもある。――しかし、どんな言葉を用意すれども、彼女にとっては役不足。


 全てを持っている、完璧な人――。


 憧れていたのだ。


 いつの間にか遠いところへと行ってしまった背中に。


 一つ歳の離れた、先輩に。


 少し背伸びをしなければ、同じ目線に立つことすら叶わない。その差に現実以上のものを感じて、声をかけようとして――やめた。


 ――13歳の夏、私はまだ子供だった。

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