DAMELORI ~ルアン・ダーレオクは転生少女である。~

三月べに

悪魔で鬼畜な少女。

第1話 転生少女。





 生まれ変わったら、幸せになれると思っていた。


 少女は、罰を受けているのだと感じた。そんな風に来世に期待を寄せ、現世を蔑ろにした罰なのだろう。

 前世の記憶は、生きるには重すぎる枷になった。その枷を、因果と呼ぶのだろう。

 生前の数多くの欠点が、現世の人生を駄目にしていく。

 少女は大きな翡翠の瞳で目にして、思い知った。


 何度生まれ変わっても、幸せを手に入れることは出来ないのだ。


 そう諦めてしまうのは、彼女の欠点の一つだ。




 母親は、逃げた。

 父親に愛想を尽かし、子ども達を置き去りにして、出ていってしまったのだ。

 双子の弟は泣いたが、少女はただ冷めた目をするだけ。

 家族を思いやらないのは、彼女の欠点の一つだ。

 そもそも、新しい家族は彼女と似たり寄ったりだった。

 少女はあたたかい愛のある家庭に生まれ変わることを期待したが、結局そんな家庭はおとぎ話だったのだと今は諦めてしまっている。

 家庭環境は、人格を形成する大事な場所。だからあたたかい家庭に生まれれば、いい人間になれると信じた。最も、前世の記憶があるならば、いい家庭に生まれても難しいだろう。

 父親は街を牛耳るマフィアのような存在。口は悪く、女癖が悪く、酒癖も悪く、暴力を振るう。

 十七歳になる兄は、そんな父親の右腕。双子の弟は兄にべったりで、少女とは口も聞かない。


 ーー別にいい。どうせ。愛せないのだから。


 少女は仲良くする努力をするつもりはなかった。生前も家族と絆を感じることもなく、互いに無関心でいたのだ。

 他人も、家族も、自分も。

 愛そうとしないのも、彼女の欠点の一つだった。




 生まれ変わった世界は、別の星だと少女は解釈している。

 何せその世界の人間は、指先から光が放ち宙に模様が書けるのだ。少女は人間の姿に酷似していても、宇宙人の一種だと信じて疑わない。

 この世界では一部の人間が、特殊な能力を持っている。魔法の類いと言えば分かりやすくイメージ出来るだろう。

 指先から魔力を放ち、魔方陣を描き魔法を発動する。

 ただしこの世界では魔法陣ではなく“紋様”と呼ぶ。魔法ではなく【ギア】と呼ぶ。魔力ではなく“光”と呼ぶ。

 光は血と同じく、遺伝するもの。

 少女の父親は、光を多く持つ体質だ。ギアを使って、いわゆる自警団を立ち上げて街を牛耳っていた。

 少女の兄もギアを使う。それを少女の弟に教えていた。

 唯一の女兄弟である少女は相手にされない。しかし少女はふて腐れることなく、膝を抱えてぼんやりとそれを横で眺める。

 兄が弟に教えるのは炎の紋様。火を操る魔法だ。

 光の文字を書くだけで、火を吹くドラゴンのように炎が出る。

 まだ光を放つことが出来ない弟に、兄は手本を見せた。

 調子に乗って操ることを誤ったそれが、少女の元に飛んできて髪を燃やした。


「ル、ルアンー!!」


 呆然とする妹に兄は駆け寄り、慌てて炎を鎮火させる。弟もあわてふためく。

 この世界でも髪は女性の命と言われている。長い髪が燃えてしまった少女は、弟と一卵性の双子に見えるほど、男のような短い髪型となった。

 隠すわけもいかず、大黒柱の父親に事情を話すこととなった。


「てんめぇ、このクソガキ。妹の髪を燃やすとは、それでも男か?」


 チェアに座ったまま父親は激怒した。

 父親の低い声と威圧感を受けて、弟は涙を流しながら絶句する。兄も青ざめて顔を背けた。


「だ、だいたい! ルアンがボケッとしてたから、こんなロアンみたいになったんだ!」


 すぐに少女に責任転換する。今もボケッとした顔で、涙を流す弟の隣に立っていた。責任転換されても、少女は何も言うことなく、翡翠の瞳で兄を見る。

 何を考えているかわからないその少女の瞳は、家族全員が苦手意識を持っていた。


「オレに無駄口叩くんじゃねぇよボケが!!」


 酒瓶が兄に向かって投げ付けられる。幸い兄の頭を掠めただけで、壁に衝突して割れた。

 わざと外したのか、狙って外したのか、どちらかは聞けず、兄はただ青ざめて固まる。


「ちとあルアンと遊んでやれ、だから拗ねてんだろ」

「拗ねてないです」


 泣く子も黙る父親に、少女は否定する。黙れと言わんばかりに父親は睨み下す。それでも少女は顔色を変えない。

 父親こそ、少女に構うべきだ。そう思うが兄は口が裂けても言えない。


「ちっ。ままごとの相手を用意してやる」

「ままごとしません」

「口答えすんじゃねぇ!」


 今度はグラスが投げ付けられて、少女の頭を通過して壁にぶつかり壊れる。

 兄と弟は震え上がるが、それでも少女は怯えた表情をしない。


「髪が短くなって、ロアンと区別出来るのは服装だけじゃねーか。ままごとしてろ」

「……」


 二卵性の双子にも関わらず、ただでさえ顔立ちが似ている弟と少女の違いが服装だけになった。

 少女はフリルのドレス姿。元々ドレスが好きじゃない少女は、膨れてスカートを撫でる。


「ベビーシッターでも雇うのですか? 父上」

「ちげーよ、したっぱに子守させる」

「部下使うのですか。誰かガキ好きでもいましたか?」

「ガキ好きの野郎なんかに娘を預けるわけねーだろうが」


 兄の問いに、父親は吐き捨てた。

 部下は皆が男。そして大半が娘を預けることができない。

 だが唯一、預けられる部下が一人いた。


「クアロが適任だろ」


 その名前を聞いて、兄は驚愕する。


「な、なんであんな奴を!?」


 その名を知らない少女と弟は兄を見上げてから、ふんぞり返る父親を見る。

 父親は選んだ理由を告げた。


「アイツがカマ野郎だからだ」



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