第26話 異能の可能性

 リレンザと話した数日後、フィオンは調査班のメンバー全員を集めた。いや、正確には全員ではない。イルミアと呼ばれている、未だ会ったことのない人物を覗いて全員だ。


「今日集まってもらったのは、ラクリィの能力の確認とでも言えばいいだろうか」

「確認っつっても、物を霧にする能力だろ? 今更何を確認するっていうんだ」

「実は先日リレンザに聞いたんだが、過去にラクリィと似た能力を使う奴と会ったことがあるらしい」


 フィオンはトアンとミシェに先日のことを詳しく話した。2人とも最初は驚きはしたが、異能ならそんなもんだろと直ぐに納得した。


「まあ、そんなとこだ。普通に確認してもいいんだが、いざ実践となると話は別だ。なら最初からほぼ実践の状態で初めからやるほうがいいと思ってな」

「なるほどね。私達もラクリィがいたほうがいい特訓になるし丁度いいかな」

「まあそういうわけだ。とりあえず始める前に異能について詳しく説明していこう。ラクリィが知らないこともあるだろうしな」


 そう言ってフィオンは、改めて異能について説明してくれた。

 異能は魔法に近いものでありながら、この根源はまるっきり違うものである。魔法は世界にあふれている魔力を体内にて循環、変質させてそれを体外に打ち出すことで発動する。


 ここまではこの世界の常識だ、俺でも当然に知っている内容である。

 一方の異能については初めて聞くこともあった。

 そもそも異能は、未だに分からないことも多い。

 発現条件にしても、王族がほぼほぼ発現するのを除けば、どのような人物に発現するのかはわからない。

 フィオンは王族の血は一切入っていないと言っていたし、調査班のイルミアも異能を使えるらしいが、王族ではないようだ。


 次に異能の性質だが、魔法のとは違い魔力は使わずに、意識するだけでその事象を起こすことが出来る。フィオンのエレメントオペやアロマのモメントジャンプを見れば分かるが、色々な過程をすっ飛ばして結果を残すのが異能の特徴だ。

 発動条件に縛りが無く、絶大な効果を持つのが異能持が特別扱いされる理由の1つだ。


 そして最後にフィオンが話した内容が今回の肝だった。

 確認されたことは少ないが、異能は稀にその能力を変質させることがあるのだという。


「つまりだラクリィ。仮に今出来なかったとしても、戦いの中やある日突然それが起こる可能性もある」

「一応聞いとくが、条件までは分からないよな?」

「それはそうさ、分かっているなら私が試してるよ」

「まあ、そうだよな・・・・・・、とりあえず試してみないことには始まらないか」


 リレンザから話を聞いた後、自分なりに出来るか試してみたが、上手くいかなかった。

 どうにも体を霧化させるという感覚が掴めない、いっそ物と喋れる能力でもあればと思ってしまうが、そんなことを考えていても仕方がない。


「まあ話はこの辺にして始めるか。形式は考えてきてある」

「その形式ってのは?」

「ラクリィには私達3人の攻撃をひたすらに避けてもらう。攻撃するのは無し、ガードも無しだ」

「それはかなりきついな・・・・・・」

「まあそうだろうが。きつい状態でこそ避けるために霧化をする必要があるだろ? 感覚も掴みやすいと思ってな」

「いいんじゃねえか? 俺は異能を使う感覚とかは分からんが、戦い活かしたいなら感覚は大事だと思うぞ」


 確かにトアンの言うことには一理ある。戦場ではあれこれ考えて戦うよりも、感覚や反射的に戦うことが多いように思う。1対1なら理詰めでもいいかもしれないが、いざという時に体が覚えているのといないのは全然違うと思う。

 今回フィオンが言いたいのは、どうしても避けれない攻撃が来た時に霧化して避ける感覚を身に着けろということだろう。

 今はまだ霧化自体の感覚が掴めていないが、戦闘の中でならあるいは。


「わかった、やるからには本気で来てくれ」

「ほぅ、いい度胸だな。まあ最初から手を抜くつもりはないが」

「流石に真剣は使わないから安心してね。て、言ってもまあ当たれば痛いし、怪我もすると思うけど」

「今後使えなきゃ怪我じゃすまないかもしれない。なら今のうちに怪我をしてでも身に着けたほうがいいと思うからな。存分にやってくれ」


 真剣でないなら精々打撲や多少の切り傷、酷くて骨折くらいなものだろう。それで今後役に立つ力が手に入るのならば安いものだ。

 とはいえ、ヨルムンガンド討伐も控えているので、早めに感覚を掴んで怪我無く終わりたいが。

 そもそも俺の異能で自信を霧化できるかもわからないが、それを言い出したらきりが無い。それに出来ると思ってやらないと、出来るものも出来なさそうだしな。


「じゃあ始めようか。目などの致命傷になりえる部位への攻撃は控えるように」


 フィオンたちが構えるのと同時に、気持ちを切り替える。目的は決まっているので、ただそれだけを意識して訓練に臨むだけだ。





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