第2話 約束

 待ち合わせの時間になりラクリィは約束の場所で待っていた。

 この時間になると街も人々で賑わい、明るい雰囲気で溢れている。そんな様子を眺めながら待っていると、すぐにアロマが近づいて来るのが見える。


(やっぱりあの赤い髪は目立つな。待ち合わせが楽でいい)


 そんなことを考えているとアロマもすぐこちらに気付いたようで小走りで向かってくる。

 目立つのはラクリィも同じだったようだ。町中を歩く人達は、黒や茶といった髪色しかいなく、その中で赤と白の髪は周りの視線を集めるのは当然だった。


「アロマ様だ! 相変わらずお美しい」

「一緒にいるのはラクリィ准尉か? なんでまたあんな奴と・・・・・・」


 そんな会話が周りから小声で聞こえてくる。

 皆アロマに対しては好印象だがラクリィに対しては悪印象なイメージが強い。それでも兵士という立場と、なによりアロマの存在のおかげで実害が出ていないのは本当に有難いことだった。


 ラクリィは外で拾われたことに加えて、この白い髪のせいで周りからは霧の生まれ変わりだとかなんとか噂されているらしい。

 しまいにはラクリィにあるを見た敵国の兵士達からは霧の悪魔なんて呼ばれている。

 実際ラクリィは自分の出自を知らないしちゃんと人間であるつもりなのだ。しかしそんなことを今更周りに言っても仕方がないだろう。付いてしまったイメージはそう簡単に変えられるものではあるまい。


 どうしようもないことを気にしていても仕方がないとラクリィは割り切りアロマの方を向くと、アロマはかなり複雑そうな顔をしていた。


「とりあえず、そろそろ行こうか」

「・・・・・・うん」


 アロマは何か言いたげだったが結局何も言わずに歩き始めた。


(アロマが気にすることはないんだがな・・・・・・。本当に優しい奴だ)


 ラクリィは内心の嬉しさを隠しつつ、振り返らず歩いていくアロマの後を追った。



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 しばらく歩いているとやがて一軒の店についた。

 町中なのにもかかわらず木々と花に覆われ、のどかな雰囲気のある店だ。


「着いたよらっくん! ここが今日の目的地緑流亭りょくりゅうていだよ!」

「緑が流れる店か、この店にぴったりな名前だな」

「でしょ。でもね、それだけじゃないんだよ」


 アロマが楽しそうに言う。そんなにも見せたかったものがあるのだろうか。


「いったい何があるんだ?」

「ふふ、それは見てからのお楽しみ! ささ、入ろ」


 店内に入ると明かりをやや抑えているのかほの暗く、まるで大きな木の中にでも入ったかのようだった。

 内装は木製のテーブルがまばらに配置され、店の奥からはほんのりといい香りが漂ってくる。

 店内を見渡していると、奥から若い女性の従業員らしき女性がにこにこしながら歩いてきた。


「いらっしゃいませアロマ様。そちらの方もご一緒でよろしいですか?」

「はい、2人で大丈夫です。外の席は空いてますか?」

「開いておりますよ。それではご案内いたしますね」


 てっきりこの中の空いてる席に座るのかと思ったがどうやら外にも席があるらしい。

 案内されるまま付いていくと1席だけ席が屋外に設置されていた。周りが木で囲まれ街の中から完全に隔離されているようにも感じてしまう。

 そんな風景が広がっていながら、俺はさらに別のことに驚かされていた。


「これは・・・・・・川か?」

「そうだよらっくん。ここはこの国で唯一天然の川が見れる場所なんだ」


 勿論この国に川が無いわけじゃない。ただそれは人の技術で地下から水を汲み上げ人口水路に流しているだけのものだ。

 自然な川はこの国では基本的には地下に流れていてこうして見ることはできない。

 無論外に出れば川を見ることはできるが、霧に覆われた中では綺麗だと感じることはないし、ゆっくりと見ることもない。

 そんな川も霧に太陽が覆われず、その水面に光が反射しているのを見ればとても綺麗なものだった。


「こんなところがあったんだな」

「綺麗だよね、わたしも最近知ったんだ。これを見たことがなければわざわざ探してまで川を見ようと思う人なんていないだろうし」


 席に着きしばらくこの景色を眺めていると、店の中から漂う香ばしい香りが近づいてきた。


「お待たせ致しました、こちらが料理になります」


 運ばれてきた料理は魚料理がメインだった。

 表面はいい感じに焼き色が付いており、匂いからするに香辛料で味付けしてあるようでとても食欲をそそられる。


「それではごゆっくりお召し上がりください」


 丁寧にお辞儀をして従業員の女の人は下がっていった。


「それじゃあ冷めないうちに食べよっか!」

「そうだな」


 俺とアロマは一言も話さず食事に夢中になっていた。草木の香りと自然に頬を撫でる風は、より一層料理の味を引き立ててくれた。


 あっという間に食べ終わり、2人して息を着く。

 注がれた香りの良い紅茶を飲みつつ胃を休ませていた。


「また来ようねらっくん」


 景色を見つつアロマが呟いた。

 表情は見えないが、いつものアロマとは少し違うように思えた。アロマは一体どんな気持ちで呟いたのだろうか。

 俺にはアロマの考えていることはわかんないが、返事は元から変わらない。


「そうだな。また、そのうちに」


 その約束がいつになるかわからないが、そう遠くならないだろうと俺は思った。


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