第184話 俺の実家

「クドウ様、用事とは何でしょうか?」


【光の剣】と別れた俺はアルジールとメイヤと共に町中を歩いていた。


先程と同様、町中では俺達に話しかけてくる者はいないが、こちらに——というかアルジールには若い女性の熱い視線が向けられていた。


あー、憂鬱な上に、胸糞わりぃー。



考えるまでもなく、目当ては俺なんぞではなく、アルジールのファンクラブの女共だろう。


その手には例のブロマイド写真らしきものが握られ、キャピキャピと小さな声で騒いでいる所を見れば一目瞭然だった。


カーティスがなんて指示出てるか知らんが効果絶大だ。


よく自制しているものだ。


勇者パーティーに話しかけた者は死刑とでもお触れが出ているのだろうか?


もしくはファンクラブ内で『みんなのアルジールの迷惑をかけてはいけない』的な鉄の掟でも存在しているのだろうか?


まぁなんでもいいが、とにかく周りで小さな声で騒いでいるものの一人たりとも話しかけてくる者はいなかった。



「あの、クドウ様」



「あ、なんだよ、うるさいな」



「……やはり耳障りですか。今すぐに始末——」



「すんな。バカ」



うるさいというのはお前に言ったんだ。


ていうか自分のファンを始末するんじゃない。


まぁイライラしてお前に当たっても仕方ないんだが。



今、重要な事はこれから起きるかもしれない試練をどう乗り越えるかを考える事なのだから。


正直、魔王軍なんぞよりも何倍も恐ろしいし、強いし、美人だし——まぁ美人は今関係ないんだが。



とにかく憂鬱だ。



「あー、用事と言うのは里帰りだ。なんでこの時期にと思うかもしれんが、可及的速やかに明らかにしておかなければならない事案が発生した」



どうするかはまだ未定だが、今後の為にも犯人は確定させておかなければならないのだ。


ようやくアルジールの最初の質問に答えた俺に驚きと感動からかアルジールは目を輝かせた。



「さ、里帰り……ご実家ですか!? 遂にクドウ様のご両親をご紹介していただけるので?」



こいつが言う通り、確かに俺はこれまでアルジールを実家に連れて行ったことはなかった。



理由は簡単だ。



なんかめんどくさそうなことになりそうだったからだ。


母さんもアルジールに会いたいと言っていたし、この際面倒は一度に片づける事に俺はしたのだ。


まぁ正直一人じゃ不安ってのもなくはないが。



「まぁ実家っていっても俺に親父はいないけどな」



そうは言ってみたものの正確には母も多分いない。


確かに母さんは育ての親ではあるが、生みの親ではない。


ある意味、リティスリティアが生みの親とも言えなくもない気もするが、アレは多分俺をこの世界に転生させただけの存在だろう。


理屈が全然分からないので判断できないが、多分リティスリティアも俺の母親ではないはずだ。



多分、幼女だし。



「なるほど、お母上がいらっしゃるのですね。是非ご挨拶しなければ」



俺が言うと、アルジールは更に目を輝かせた。


上司の母親に会うのがなぜそんなに嬉しいのか全く理解できないが、アルジールは母さんに会うのがかなり楽しみなようだ。


多分、俺の部下な上にこの性格なので、かなり母さんに可愛がられる可能性は高いが、それがかなりめんどくさいのだ。



「あまり余計な事はすんなよ」



「もちろんです。私がクドウ様のお母上に御迷惑をかけるわけがないではありませんか」



「まぁそれならいいんだけどな」



まぁ言っても無駄だろう。なるようにしかならない。



「あ、あとな。メイヤ」



「なんでしょうか? クドウ様」



俺がメイヤにも話を振るとメイヤは特に感動した様子はなく、冷静な口調で俺に問い返す。



「お前はあっちに行ってもいつも通り、アールにベタベタしといていいぞ」



「……えっ? あ、はい、分かりました。——だってお兄ちゃん!」



別に言う必要はなかったかもしれないが、俺がそう言うと、メイヤは一瞬不可解な顔をした後、いつも以上にアールにべったりとくっついた。


いつもならこれだけひっつくと「少し離れろ」と言うアルジールも俺の命令とあってか何も言わずにただメイヤの為されるままにされていた。


なぜこんなことをわざわざ言ったかと言うと、それは母さん対策だ。


多分ないとは思うが、アルジールとメイヤが緊張でもして母さんたちに会う時に、いつものべったりスタイルを解除でもされれば、メイヤがいらぬ誤解を受ける恐れがある。


歓迎ムードでも面倒だが、一番怖いのは母さんが嫉妬に狂う事態になることだ。



最悪の事態にはなりはしないだろうが、息子を溺愛する姑みたくメイヤに酷く当たる可能性は十分にある。


1000年何もなかったのだから今更、彼女を実家に連れて行く事などありはしないのだが、母さんは無駄に俺への評価が高いのだ。



「それで、ご実家はどこにあるのですか?」



「ん? あぁ、大まかに言えば魔界南部だな」



「そうなのですか? 意外ですね。まさか私と同郷でしたとは」



アルジールは驚いたように言うが、実際はアルジールの故郷である龍神族の里と母さんの住む城はちょっと離れている。


魔界は人間界から見て、右側——つまり東にあるのだが、アルジールの故郷がある龍神族の里は人間界から見て奥の方に位置しているのだが、母さんの住まう城は逆の人間側に近い方に位置している。



「まぁ少し離れているしな。それにちょっと特殊な場所にあって、結界も張ってあるから魔人でも普通に見つけるのは不可能なんだよ」



「なるほど、それは興味深いですね」



何が興味深いのかはよく分からんが、アルジールはそれだけで納得したらしい。



「それで特殊な場所とは一体どこなのですか?」



「あぁ、それはだな——」



俺がその特殊な場所を告げると、アルジールとメイヤは驚いたように目を見張っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る