第179話 王とロリババ……少女②

「本来でしたら、魔人の侵攻を防いだ勇者達の武勲を称える為に祝勝パーティーを開きたかった所なのですが、それは流石に難しそうですね」






「あぁ、私達も色々とやらなければいけない事がある。すまないが、私達もこれで失礼させてもらうよ」






数分間、ここ数日に起きた事件の流れや今後の対応について簡単に話し終えたカーティスとシステアはそう言って話を切り上げた。


正直言えば、祝勝会にはちょっと期待していたのだが、今の状況では呑気にそんな事をやっている場合ではないという事らしい。






まぁそりゃそうか。






3日後に人間界の存続をかけた戦いが待っているというのに、バカ騒ぎしている暇など人類にはないらしい。


そんな時、立ち去ろうとするシステアをカーティスが引き留めた。






「あっ、待ってください。勇者クドウと話がしたいのですが、少々お借りしてもかまいませんか?」






「……なぜ、私に聞く? 本人に直接尋ねればいいだろう」






「ということらしいのですが、挨拶もまだですし、如何ですか? 勇者クドウ」






そう言って、カーティスはにこやかな笑みを俺へと向けた。


なぜかシステアが不機嫌そうなのは俺の気のせいだろうか?


確かにここに来て、カーティスとずっと話していたのはシステアで時間があまりないとはいえ、挨拶すらロクにしていなかった。






見た目がほぼユリウスなので、タメ口にならないように気をつけつつ、俺はカーティスの誘いに答える。






「はい、もちろん構いません。アールとメイヤもご一緒しても?」






「えーと、そうですねー、まぁ構わないですよ」






カーティスは少し迷った様子を見せた後、アルジール達の同席に同意した。


すぐにカーティスはこの場にいた全ての貴族たちに退室を促す。




普通なら護衛の一人でも残さないといけない気がするが、特にそんな気配もなく、貴族たちはゾロゾロと謁見の間からスムーズに退出していく。






「じゃあ俺達は外で待ってるっスね。多分そんなに時間はかからなさそうっスし」






「はい」






なぜかニヤニヤしているガランはそう言って、貴族の後に続き、玉座の間の外へと向かって行った。


アリアスとニアは特になにかいう訳ではなかったが、なぜかシステアは少し不機嫌そうにカーティスへと不機嫌そうな視線を送っている。




全員が部屋から去ると、玉座の間には俺、アルジール、メイヤ、そしてカーティスだけが残された。




そんな状況でアルジールがカーティスへと睨みを利かせながら言った。






「おい、貴様、クドウ様に何の用だ? つまらんは話だったら承知——」






ボコッ!






とりあえず不穏な事を言いかけたアルジールに俺は拳骨を食らわせた。


流石に今の状況で打ち首という事にはならないだろうが、普通であれば今の発言だけで一発処刑モンだ。




まぁこれまでのカーティスを見る限りそんなことにならない気はするが、かといって何を言ってもいいわけではない。


ていうかこれ以上俺の勇者パーティーの評判をこれ以上落とすわけにはいかないのだ。




強ければ何やっても許されていた魔人時代とは違うのである。


俺が目指すは誰もが憧れる勇者であって、頭のおかしい勇者ではないのだから。






まぁ昔のように「何をするのですか?」と言わないだけマシなのかもしれないけどな。






自分が悪い事をしたのか理解できているのか特に文句を言う素振りもなく、おイタをやらかした犬のような表情でアルジールは俺を見るだけだった。






「あ、えーっと、ゴホン。それで俺達に話ってなんですか?」






ワザとらしい咳払いで誤魔化しつつ、俺がカーティスに要件を尋ねると、特に気分を害した様子もなく、カーティスはにこやかな笑みで突拍子もない事を言い始めた。






「勇者クドウ、貴方とシステア様との関係を聞きたい。其方にとってシステア様はどういう存在ですか?」






「……は?」






あまりにも突拍子もないカーティスの発言に俺は心の声をそのまま口に出してしまった。




関係もクソも俺がシステアと知り合って数日しか経ってない。


中々濃厚な数日間だったから流石に名前を憶えていないという事はないが、地球にいた頃でシステアが仮に特に交流もないクラスの女子だったならクラス替え後の数日で名前を憶えられた可能性は皆無に近いだろう。




少なくともそれなりの関係と築けたかと問われれば間違いなく俺は絶対にノーだ。




俺は少し悩んでからカーティスの質問に答えた。






「えーと、と、友達ですかね」






と言ってはみたものの正直、友達と言っていいかも微妙な所だ。


共に魔人と戦ったという意味では戦友と呼んでもいいかもしれない。


だが、本当に友達と言えるほど俺はシステアの事を知っているのだろうか。


一度一緒に飯を食ったくらいでシステアの好きな物や趣味の一つすら俺は知らない。






「そうですか、友達ですか。なるほど」






俺の言葉を聞いたカーティスは何かを考えるような表情で顎に手をやっている。






こいつの意図が1ミリも理解できない。


システアと俺が友達で何を考えこむことがあるというのだろうか?




そして、メイヤがニヤリと僅かに笑みを浮かべながらとんでもないことを言いだしたのは俺がそんなことを思ったその時だった。






「もしかして貴方、あの娘の事が好きなの?」






「なに? そうなのか?」






メイヤの発言にアルジールが少し驚いたように問い返す。


こいつに男女間の心の機微など分かるわけがないので当然の反応だろう。




メイヤがこんなことを言いだしたのが意外だったのは俺もアルジールと同じだが、俺の感想は——。






は? 何言ってんの?






である。






もっと言うなら、そんなわけがないし、仮にメイヤの予想が正しかったとしても、エルナスの王であるカーティスが今、初めて会ったばかりの俺達に本当の事をいう訳がない。


少なくとも俺なら体面どうこう以前に恥ずかしくて絶対に言いはしない。




だが、そんな俺の予想は外れ、話は予想外の方向に向かうことになった。






「ふふ、そうですか。分かってしまいますか。そうです。私はシステア様を愛しています。15年前初めて出会ったあの日からずっと」






えっ? マジで? ていうか言っちゃうの? マジか、こいつ。






正直思ってもみなかったはっきりとしたカーティスの告白になぜか当事者ではない俺でさえなんか少しドキドキしてきた。




1000年近く生きてきた俺も未だこういう事に耐性はあまりないのである。


100体の魔人に囲まれたとしても、動じることなくボコボコにできる俺でも体験した事もない事に耐性などできるわけはない。




だが、そんな勇気ある王、カーティスにメイヤは吐き捨てるように言った。






「情けない男。告白する勇気なく、クドウ様に探りを入れるなんて」






「ふふ、言い返す言葉もない。15年間、私は何もできなかった」






笑みの中に悲しみを入り混じらせたカーティスは苦笑しながら、メイヤの暴言に答えた。




普通に会話が成立してしまっているが、本来ならその場で処刑モンだろう。




俺は女は殴らない主義なのでアレだが、仮に俺がアルジールにこんなことを言われようもんならその場で立てなくなるまでボコボコにしていただろう。




笑って許すだけカーティスは心が広い男だし、決して勇気がない男だとも俺は思わない。






「ですが、仮に私が思いを告げたとしても、システア様が私の思いに応える事はありえませんよ。システア様の願いを叶える所かシステア様を森から連れ出す事すらできなかった私にはね」






そう言ったカーティスの笑みにはやはり隠し切れない悲しみがあるように俺には思えた。

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