第149話 絶対的な差

「……なにを?」



アリアスの目にも止まらぬ剣をクロナはいつの間にか抜いた剣で受け止め、アリアスに行動の意味を問う。



「あなたはここで討たせてもらいます。魔人ミッキー」



「ミッキー? 誰ですか?」



クロナは初めて聞いた名に更に聞き返すが、アリアスは攻撃を止める事なく、更にクロナに斬撃を叩きこむ。



「惚けても無駄です。ミッキー以外に貴方ほどの力を持つ魔人が存在する訳がないでしょう」



アリアスは攻撃を続ける中、その考えが正しかった事を知る。


目の前の女はアリアスの全力に近い斬撃をいとも容易く捌いてのけていた。


恐らくまだこの女は本気ではない。


こんな芸当ができる魔人がいるとするならそれは謎に包まれた四天王魔人ミッキー以外にはあり得ない。


すると、女は耳を疑う言葉を口にした。



「なるほど。それがこの世界の魔王の名ですか」



そんな女の言葉にアリアスだけでなく冒険者協会全ての者が息を呑む。


数日前までこの世界の魔王はギラスマティアだった。


その名を知らない者などこの世界には誰もいない。


人間界魔界の老若男女限らず全ての知的生命体全ての共通認識である。


今の女の発言はアリアスから見れば次の魔王の座に就くのは自分だという宣言に他ならなかったのだ。



「……それでブリガンティスと手を組んだのですか。もしかしてギラスマティアを討ったのもあなたですか?」



「ブリガンティス? ギラスマティア? 先程からあなたは何を言っているのですか? 私は勇者クドウと勇者アールという者から話を聞きたいだけです」



会話の最中にもアリアスは幾度となく女に斬り込むが、それら全てがクロナによって防がれる。



(ダメだ。勝てない。恐らくこの場にいる全員でかかったとしても……)



そんなことを直感で勘づきつつも、アリアスには1つだけ分からない事があった。



(なんで攻撃してこないんだ?)



女がアリアスの斬撃を捌くのに精一杯で反撃できないようにはとても見えない。



「もう一度だけ言います。私達はクドウとアールという勇者から話を聞きたいだけです」



「そんな話が通じると思いますか?」



今の情勢下で人探しの為に魔王軍四天王が勇者から話を聞きたいなどというバカげた話があるはずがない。


そう思いアリアスは女の話を切り捨てると、アリアスの斬撃を受け止めてから女は後ろに飛びアリアスから距離を取った。



「……そうですか。ではもう終わりにしましょう。いくらレナザード様でもそこの女性達に負けるとは思えませんが、万が一があっては取り返しがつきませんからね」



(……レナザード様? あの男の事か?)



アリアスは女の向こう側にいる黒ローブの男を見る。


こんな状況だというのに男は腕を組みただ女とアリアスの戦いを見守っているだけだった。


思えば男はアリアスが戦っている間ずっと女の向こう側にいた。



(まさか僕と戦っている間、ずっとあの男に攻撃が向かないように立ちまわっていたのか?)



思っていた以上の彼我の差を知ってもアリアスは戦意を失わず、女に剣を構える。


だが——。



「さて、次の相手はあなたですか?」



突然、女はそんなことを言いだしてシステアに話しかける。


システアは意味が分からず、「どういう意味じゃ?」と聞き返した瞬間、何かが倒れた音がして、システア達は音がした方を見ると、そこにはアリアスがうつむけに倒れていた。

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