第143話 力の反動

「——レナザード様、レナザード様、朝ですよ」



クロナは「うぅん」と唸るレナザードを更に揺さぶった。


昨日は結局、町での聞き込みをレナザードの「疲れたからもう寝よ」発言により、宿で寝る事にしたのだった。


ちなみにクロナとレナザードの部屋は同室である。


部屋を分けなかったのには特に理由はない。


確かに性別上は男女一つ屋根の下ということになるのだが、この2人でそういうことが起こる事などあり得ない話なので、あえて理由をつけるとすればただ別部屋だと少し不便だったからだというくらいだろう。



「レナザード様、起きてください。今日は冒険者協会へ聞き込みに行くと決めたではありませんか」



更に体を揺さぶられてようやくレナザードは覚醒した。



「うぅ、体が怠いな。……魔力が戻ってない。どういうことだ」



レナザードは自分の魔力がまったく回復していないことに気付き違和感を覚えた。


レナザードはこの世界にやってくる前に人間達の謀略により四大聖獣を召喚させられたことと別世界へと転移する事ができる超常の魔法『異界転移門』を行使したことにより魔力が底を尽きていたのだが、その魔力が全く回復していなかったのだ。


ちなみに四大聖獣とはレナザードが得意とする召喚魔法で呼び出す事ができる最強の4体の召喚獣であり、レナザードの力の全てと言っても過言ではない最強の力だ。


だが、魔力が戻っていないレナザードはその得意とする召喚魔法を使えないわけで——。



「やはりレナザード様もですか。だから剣も鍛えた方がいいと日頃からあれほど……」



そう苦言を呈したクロナ自身も魔力がほとんど回復の兆しを見せていなかった。


だが、クロナとレナザードでは同じ魔力のない状態でも状況が違う。


召喚術とその他の魔法が戦力のほぼ全てだったレナザードに対し、クロナは魔法よりもやや剣術寄りの万能タイプ。


元々の戦闘力では始まりのエルフとして途方もない魔力有していた事からクロナを遥かに凌駕していたレナザードだったが、魔力がほとんど使えない現状においてその戦力は完全に逆転する形となっていたのだった。



「恐らく、限界を超えて魔力を使いすぎた反動なのでしょうね。いずれは徐々に回復していくでしょうが……」



一応レナザードも剣を所持しているが、魔力が戻るまではレナザードは戦力に数える事はできないだろう。

現状のままだと人間の冒険者はともかくとして名のある魔人程度にすら負けてしまう可能性すらあるようにクロナには思えた。



「魔力に関してはリアに会ったら相談してみる事にしよう」



「そうですね」



レナザードとクロナはその後、宿で朝食を取ってから情報収集のため、冒険者協会へ向かう事にした。


場所については昨日の聞き込みでついでに聞いておいたので大体の場所は分かっている。


レナザードとクロナが宿を出ると、時々朝まで飲んでいた酔っ払いらしき者が歩いていたりもするが、昨日と比べるとお祭り騒ぎはかなり収まり、町は修繕に動く人々で行きかっていた。



「とても魔人の侵攻とリアの来襲を受けた町の様子には見えないな」



レナザードが知る魔人による侵攻を受けた町はそれは凄惨なものだった。


本来の実力のレナザードやクロナにとって魔人は脅威には値しない。


だが、人間にとって魔人は脅威以外の何物でもなく、勇者などの一部の強者を除けば強弱に関係なく魔人の力は人間のそれを遥かに上回っている。



「それほどまでに3人の勇者がこの街で信頼されているということでしょうね」



「なのだろうな。まぁ会ってみれば分かるはずだが」



力はもちろんそうだが、魔人と人間の関係をどう考えているのか。



(——と今はそのようなことを考えている場合ではないな。私はあくまでこの世界から見れば部外者。積極的に人間と魔人の戦いに介入すべきではないのだからな)



レナザードとクロナは更に数分歩くとようやく冒険者協会シラルーク支部に到着した。

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