第141話 衝撃の事実

レナザード達がシラルーク内に入ると、そこかしこの建物に生々しい破壊の跡が残っているというのに町は暗い雰囲気などまったくなくむしろ活気に包まれているように見えた。


本当ならば町の修繕にすぐにでも取り掛からなければならないだろうに人々はそんなことをそっちのけでなにやら騒ぎまわっている。


その光景は戦いの後というよりは祭りの最中と言った雰囲気に近かった。



「どうなっている? 町がこんな状態だというのにこの騒ぎはなんだ?」



「さぁ? なんでしょうか?」



レナザードが注意深く聞いてみると「勇者」「アール」「クドウ」「アリアス」というワードがそこかしこで飛び交っている。



「アールという名が一際大きく叫ばれてますね。アールという勇者がクドウとアリアスというパーティーメンバーを率いて何かを成したという事でしょうね」



実際の所、勇者はアールだけではなくクドウとアリアスもなのだが、レナザードとクロナのいた世界では勇者と呼ばれる存在は1つの時代に一人しか存在しない者だったのでクロナはそう誤認してしまう。



「ここにフィーリーア様がいたのですよね?」



「恐らくな」



「そしてアールという勇者達はここで偉業を成した」



「このお祭り騒ぎを見ればそういうことだろうな」



…………。



「えっ? もしかしてフィーリーア様、そのアールとかいう勇者様に討伐された?」



「つまらん冗談はよせ。仮にこの世界に存在する全ての生物で挑んだとしてもリアに勝つことなどできない」



レナザードはこの世界について何も知らないが、魔人、人間、竜などの強大な魔物が存在している事くらいは想像がついている。


だが仮にどれほど強大な魔王がいたとしても、仮にどれほど強き勇者がいたとしても、それらが束になってフィーリーアに挑んだとしても。


フィーリーアに勝つことなどできないのだ。


これはレナザード個人の想像ではなく純然たる事実である。


それほどまでに始まりの者とそれ以外の生物では隔絶された力の差があるのだから。



「そんなことよりも早く話を聞いてこい。それで多少は私達の方針も決める事ができるだろう」



レナザードにそうせっつかれクロナは渋々近くにいた男に話を聞きに行くことにした。


レナザードが遠くからその様子を眺めているとクロナは1分ほどでレナザードの所に帰ってきた。



「どうやら魔王軍が人間界に侵攻したようです。そしてそれを破ったのが勇者アリアスの勇者パーティーとE級冒険者の2人だったそうですね。ちなみにそのE級冒険者というのがアールとクドウという者でその功績を受けて勇者昇格が内定したみたいです」



レナザードはうんざりしながらその報告を聞いていた。



「この世界もか。どうして人間と魔人はそうも仲が悪いのだ。なぜ手を取り合おうとしない?」



レナザードにとってはこの世界は縁もゆかりもない世界だが、それでもレナザードにとっては他人事のように思えなかった。


レナザードもまたこの世界ではない別の世界の人間と魔人との争いに巻き込まれ、その身に宿す膨大な魔力を喪失することになったのだから。


昔の仲間達が聞けばレナザードを笑うだろう。


始まりのエルフともあろう者がそんな些末な戦いが原因で力を失う事になったと知れば。


レナザードは6人の中では最も思考が人間に近かった。


他の5人であれば気にもかけないであろう人間と魔人の戦いを憂い、戦いを阻止する為に奔走していた。


そして、レナザードは罠にかけられたのだ。


最もレナザードが愛していた人間達によって。



「それでリアはどうそれに絡んでくるのだ? まさかリアが人間の味方をしたのか?」



レナザードとは違いフィーリーアの性格上それはないように思えた。


フィーリーアにとって始まりの6人と自分の子供達が重要であり、それ以外に興味を示す事はほぼない。


人間と魔人がどれだけ争うが滅ぼうが好きにすればいい。——というのがレナザードから見たフィーリーアの基本的なスタンスだ。


もっと言えば、現在の状況から見て最もフィーリーアが重要視していそうな事柄はリティスリティアの所在である。


だから、レナザードはクロナの報告を聞いて、フィーリーアがどう今の話に絡んでくるのかが分からなかった。


すると、クロナは不可解そうな表情でレナザードの問いに答えた。



「えーっと、フィーリーア様……、というか人間界では聖竜様と呼ばれているらしいのですが、勇者達が魔人と追い返した後、フィーリーア様はギー君という者の敵討ちの為に勇者を殺しに来たそうです。その途中でユリウスという神が現れて「真犯人は俺だ!」とカミングアウトするとそれに激高したフィーリーア様は逃げたユリウスを追いかけて、その話を聞いたクドウという勇者がフィーリーア様の後を追ったそうです」



「……お前の話はよく分からん。ギー君とは誰だ? アクア達の弟か? ていうか勇者と神を殺されたというのになぜ人間達はああも浮かれているのだ?」



いまいちクロナの言っていることが理解できない。


確かに人間界侵攻を阻止したのであれば人間達が浮かれるのも分かる。


だが、その貢献者たる勇者の一人が殺されたのならばもっと暗いムードになってもおかしくはないだろう。


未だ魔人達も健在なはずだというのに。



「えーっとですね。あくまでさっきの男に聞いた話ですよ?」



「なんだ? 早く言え」



更に何かを言おうとしたクロナに乱暴に続きを促すと、レナザードは信じられない言葉を耳にすることとなった。



「その勇者クドウは死んでいません。フィーリーア様との戦闘中に説得して無傷で帰還を果たしたそうです」

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