第129話 世界の敵と彼女

「そうそう、地球だ」



ザラスは彼女から名前だけを聞いた事のあるその世界の名を思い出した。


彼女が異世界である地球から魂だけを引っ張って来て、肉体を与えられたのが現天使長のミツキだった。


そんなミツキが彼女の元から男の配下に移ったのが1000年以上前の事。


それ以降ミツキは男の下で天使軍の運用と天空都市の運営を任される男の側近中の側近となっている。


ザラスはそういう事もあってユリウスもミツキ同様地球から連れてこられた者だと思ったのだったが、男の答えは違った。



「ユリウスはこの世界出身ですよ」



「へぇ、魔人を神にしたのか」



当然ザラスはそう考えた。


いくら彼女でも弱い魂、肉体から強き者を生み出す事はできない。


ザラスやフィーリーアなどの絶対強者と比べれば劣るとは言ってもこの世界における強者は魔人である。


だからこそザラスはユリウスが他の世界から連れてきた転生者かと予想したが。



「違いますよ、ザラス様。ユリウスは人間です」



「だーかーら、人間なんて竹槍一本で…………って、あっ?」



男の言葉を否定しようと声を上げたザラスだったが、途中で何かに気付き、言葉が途切れた。



「勇者か」


ようやく答えに辿り着いたザラスがそう呟くと、男は更にそれを補足する。



「ええ、ユリウスこそがこの世界において第一級魔法に到達した初めての人類、1000年前に『金の勇者』と呼ばれた初代勇者ですよ」



「なら他の2人は魔人なのか? よくケンカにならないな」



当たり前の話だが、人間と魔人の仲は良くはない。


現在もそうだが、1000年前の人類と魔人の関係は支配され続けられていた者と王である魔王を殺された者である。



「ザラス様はパーティーというものをご存じありませんか?」



「もちろん知っているぞ。御馳走と美味い飯でドンチャン騒ぎするアレだろう?」



ザラスの答えも間違ってはいないが、男の求める答えとはもちろん違った。



「パーティーとは2~5名ほどでチームを組んで、敵と戦う部隊の単位のようなものです」



「あぁ、ババアとかウラドとかティアとかで宙の化け物相手にやってたアレか」



「え、えぇ、まぁアレですね」



ザラスが思っているアレは個対軍勢×3のようなもので連携も何もない単なる力押しで規模も本来の冒険者パーティーともかけ離れ過ぎているが、説明するのも面倒なので男はとりあえず頷いた。



「ユリウスのパーティーメンバーだった始まりの聖女マリアとユリウスの剣の師で鍛冶師兼剣士だった剣神ジンクが残りの3神の2人です」



「はっ、そんな仲良し3人組をティアは神化覚醒させたのか」



ザラスはそう言って笑うが、男としては彼女の判断はあながち間違っていないと思っている。



「そうは言いますがザラス様、マリアもジンクも当時の魔王軍四天王に匹敵する強さを持っていましたよ。特にジンクは剣だけの強さで言えばユリウスを超える腕を持っていました。まぁ魔法が普及してからは魔法の才能で上回るユリウスと立場を逆転させたようですが」



「ふーん、まぁお前の部下自慢とかどうでもいいわ」



ザラスは自分から話を振っておいて、興味が失せたのかまたポリポリと腰を掻いた。



「まぁ世間話の礼だ。話くらいは聞いてやるよ」



ようやく本題に移れると男は心の中で溜息を吐いてからザラスに尋ねた。



「……ザラス様、あのお方は「敵が来る」と仰っておられたのですよね?」



「あぁ」



ザラスは1000年以上の時を経てもあの時の彼女の言葉を鮮明に覚えていた。


あの日、彼女に呼び出されかの地に集結した5人にそう言った後、彼女は更にこうも言っていた。



——異世界に飛んでそれぞれ向かう世界にいる人間達に魔法、それと戦う術を教えてあげて欲しい。と



だが、ザラスもフィーリーアも他の者も彼女の話を真面目に受け取る事はなかった。


なぜなら彼らの共通認識があったからだ。


自分達に勝てる者など存在しないという。


仮に一世界の全戦力を投入すればかの地の始まりの者を倒す事は可能かもしれない。


だが、かの地の6人が協力して勝てない敵など存在するわけがないということは共通認識以前にそれはもう世界の真理に近い。


だからこそザラスには分からなかった。


彼女がなぜあんなことを言ってザラス達を異世界に飛ばさせたのかが。


ザラスが思考の迷宮に陥ろうとする中、男は言った。



「この話を聞いて考えたのです。その敵について」



ザラスは男を睨みつけるように見た。


それが分かれば苦労はしない。


ザラス自身1000年に渡り考え続けたが遂に答えが出る事はなかったのだ。


だからザラスは期待することなかったが男の話をそのまま聞くことにした。


そしてついに男はその名を口にする。



「恐らく敵は——————」




ザラスは男が口にした名前を聞いてあまりもの衝撃に目を見開き、そして呟いた。



「……そんな馬鹿な話があるか」



そして、更に男の話を否定する為に頭を巡らすが、確かに男の言った事を否定する材料がまったく見当たらない。


それどころかそう考えれば彼女のあの日の行動に全て説明がついてしまった。


ザラスはこれから成さねばならない事をすぐに理解した。


恐らく男もその事でザラスに会いに来たのだ。



「……あぁ、そういうことだったのか。俺も協力してやる。…………フィーリーアを殺してティアを守る」



それを聞いた男は無言で手を差し出すと、2人はしっかりと握手を交わしたのだった。




全ては彼女、始まりの神——創世神リティスリティアの為に。

後書き編集

ユリウスは始まりの勇者でした!

よくよく作品を見ていてくださった方にはバレていたかもしれませんがそういう事です。


そして今回明らかになった世界の敵というラスボス臭プンプンの存在。

彼女はそれから世界を守るために始まりの者達の5人を4つの異世界に飛ばしたのです。(1人は自主的に転移しましたが)


地味に彼女の名も判明して判明したことだらけの回でした!


あ、ちなみに今回名前だけ出てきたウラドはかの地にいた始まりの6人の内の1人で始まりの悪魔で、ちょ~強い悪魔です。

多分神ボコでは出番は来ませんが、今シリーズの重要キャラの1人です。

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