第115話 俺のファン
エリーゼと見知らぬ美少女の登場にプリズンは口笛を鳴らしながら、割と大き目な声で呟いた。
「ひゅーぅ、流石はエリーゼさん」
「なにが?」
よく分からないプリズンの感想に俺は思わずツッコんだ。
エリーゼはただ美少女と一緒に冒険者協会にやってきただけで別に何もしていない。
プリズンの発言から考えてまだ一番可能性が高そうなのはプリズンとエリーゼが合コン的な何かを開くことになって、プリズンが連れてきたのはブレイクでエリーゼが連れてきたのが隣にいる美少女で、めっちゃ可愛い子連れてきたエリーゼさん流石! とかそういう感じなのだろうが、それでもかなり無理がある。
エリーゼは面食いな上にアルジールにゾッコンなので顔面タコ男でチンピラのプリズンと合コンなど開くわけがない。
仮に万が一開くことになったとしてもこんなに冒険者がいて、アルジールの耳に届きそうな所で待ち合わせするなど正気の沙汰ではない。
(いや、でもあの女ならありえるか? ……いや、やっぱないな)
俺はプリズンの横顔を見てそう判断した。
少しして、互いにアクションを起こさなかったのを見てか美少女を置いて、エリーゼが早足でずんずんとこちらにやってきてプリズンに言った。
「何してるんですか? 早く行かないと」
(えっ、マジで? 正気か?)
どうやら俺が捨てていた可能性が当たっていたらしい。
恋愛は自由というし、俺がとやかく言うつもりもないし、エリーゼはどうでもいいが、入り口で一人立ってモジモジしている美少女に何も起きない事を願いつつ俺は2人を送り出す事にした。
「俺は気にせず行って来いよ。俺はこのままシステアさん達を待つから」
「えっ、いや、クドウの兄貴?」
困った顔のプリズンに状況が見えていなさそうなブレイク。
どうやら合コンの線は消えたらしい。
なぜかちょっとホッとしていると、そんな状況を見ていた美少女が俺達の座るテーブルの方に歩いてきた。
近くまでやってきた美少女はやっぱり美少女で華奢で黒く伸びた髪が似合う娘だった。
歳は今の俺と同じくらいに見える。
そして、椅子に座っている俺よりも少し高い位置から見下ろした少女はなぜか少し照れた様子で俺に話しかけてきた。
「どうですか? クドウさん」
(……ん? 何が?)
いきなり知らない美少女に「どうですか?」と問われてもそう思うしかない。
新手のナンパかとも一瞬思うが、そもそもスタンダードなナンパすらされた事無い俺には何が新手のナンパかすら分からない。
(……それにしてもシステアさん達遅えな)
そんな愚痴を内心で溢しつつ、来ないものは仕方ないので俺は目の前の美少女について考えてみることにした。
(……俺の名前知ってるってことはやっぱりこの場合ファンって事だよなぁ?)
俺が考えを巡らせている最中も美少女が照れている様子からそう思ったが、それにしては先程の発言はやっぱり変だ。
やはりこの場合先程の美少女の質問の意図を確かめるしか先に進む方法はない。
俺はプリズンに肩を掴み耳打ちした。
「おいっ、今のどういう意味だ?」
すると、プリズンはすぐさま俺に耳打ちを返す。
「どうもこうもとりあえず褒めればいいんじゃないですか?」
衝撃的なプリズンの返しに俺は耳を疑った。
(何っ? いくら美少女とはいえいきなり知らない女に「どうですか?」と言われて褒め言葉を返すのが人間界の常識なのか?)
イタリア人じゃあるまいし、そんなわけがと一瞬思ったが、ここは日本でもなければイタリアですらなく更に言えば魔界ですらない。
今までの流れから見てこの状況についていけてないのは多分俺だけで恐らくこの世界の人間界の常識からズレているのは恐らく俺なのだろう。
そしてこのままグダグダやってても埒が明かないと思った俺は特に何も考えず目の前の美少女に思ったままの感想を口にする。
「可愛いですよ」
人間界の常識に少し疑問を思いつつ、発した言葉だったが本当の事を言ったまでなのでそれほど抵抗はなかった。——特に知り合いでもないファンの子だったし。
だが、思った以上に効果は抜群だったようで美少女はその場で固まり、みるみる内に顔は真っ赤になっていく。
この後は握手でもしてあげればいいのかと思っている俺にプリズンが小さな声で言った。
「……大胆ですね。兄貴」
いや、お前が言えって言ったやん。
すると、更にプリズンは不可解な事を言い出した。
「変えた髪型褒めるとか、服装とかを褒めるかと思ったのに」
いやいや、服装はともかく前の髪型とか知らんし。
エリーゼはエリーゼで固まっている美少女になにやらキャーキャーと騒ぎながらなんか言っているし訳がわからん。
冒険者協会の一角がちょっとした騒ぎになっている中、冒険者協会の入り口の扉がギィーと鳴り誰かが入ってきた。
俺にはその入ってきた男の姿を確認する必要はなかった。
俺が入ってきた時以上の騒めきとさっきまで美少女相手にキャーキャーやっていたエリーゼが美少女を無視して、凄まじい勢いで入り口にダッシュしていくのが見えたからだ。
そして俺は小さな声で呟いた。
「……なんで筆頭勇者の俺の時よりお前の時の方が歓声大きいんだよ」
そんな愚痴を溢しながら入り口の方を見るとエリーゼに腕を掴まれたアルジールがこっちに歩いている所が見えた。
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