第114話 地味な勇者
俺が冒険者協会の扉を開くと、周囲の視線が全て俺に集中した。
その視線は2日前に浴びたような新人冒険者に対する興味の視線ではなく、尊敬や憧れの視線がほとんどだった。
(うん、これこそ俺が求めてたやつ。流石に町の人にはまだまだ顔バレしてないけど冒険者協会に来るとやっぱりね。ふふふ)
俺がちょっとした優越感に浸っていると、男が一人俺に近づいてきた。
「兄貴! お疲れ様です! どうしてこちらへ?」
大きな声で俺に話しかけてきたのは都合よく現れては俺達に色々教えてくれることでお馴染みのスキンヘッドの今はB級冒険者プリズンである。
「あぁ、待ち合わせしててな」
そう言って俺は周囲を見渡すが、システア達はまだ来ていないようである。
すると、プリズンは納得したように言った。
「あー、システアさんですね?」
「なんでお前が知ってんの?」
待ち合わせしていることはシステア達勇者パーティーしか知らないはずだ。
可能性としては比較的お喋りそうなガランあたりが喋った可能性が一番高い気がするがどうだろう。
すると、プリズンはニヤニヤしながらなぜか肘で俺の脇腹を小突き始めた。
「兄貴も隅に置けないですね~!」
「……すまん、まったく意味が分からん」
問いと返事がまったく合っていない。
確かにプリズンは俺と会うまでは話の通じないチンピラに毛が生えた程度のチンピラのような冒険者だったが、今はちゃんと話の通じるチンピラになっているはずだ。
「まぁまぁ! もう少し待っててください! すぐ来ますから!」
結局なぜ知っているのかの答えを聞けず、謎のテンションのプリズンに圧されて俺はなぜかプリズンと共にシステア達を待つことになった。
待合所のテーブルで向かい合うプリズンに俺は話しかける。
「そういやエリーゼがいないけど、あいつ休みじゃないよな?」
受付見ると、エリーゼはおろか受付嬢自体おらずもぬけの空である。
「あー、今日明日は休みらしいですよ。ここ」
「いや、ダメだろ? 依頼とかどうすんだよ?」
「どうせお祭り騒ぎで依頼受ける冒険者なんかいないんじゃないですか?」
確かに余程の緊急時でない限り冒険者協会が冒険者に依頼を強制することはない。——今回の魔人の騒ぎのようなことでもない限り。
つまり冒険者が依頼を受けないので冒険者協会が営業してようがしていまいが関係ないのだろう。
それで問題でそうな依頼があればその時だけ個別に連絡が取れる冒険者に依頼するようだ。
「案外適当なんだな。ていうか休みならなんで普通に開いてるんだ?」
「とりあえず開けといたら緊急時に困らないからじゃないですか? あとは情報交換とか?」
確かにいつもほどではないが、冒険者協会内には休みとは思えない程冒険者で賑わっていた。
まぁ所々で軽く酒盛りを始めている所を見ると、緊急時に使い物になるかは甚だ疑問ではあるが。
すると、冒険者協会に入ってきた1人の冒険者が俺達の顔を見て近づいてきた。
「プリズンさん、お疲れ様です」
冒険者の男はプリズンに挨拶しつつ俺の事をチラチラと何度も見ている。
「おぅ、ブレイク」
気軽い感じでそう返したプリズンにブレイクと呼ばれた冒険者は言った。
「あのー、こちらの方ってもしかして例の……?」
「おぅ、そうだ。魔人の大軍を打ち負かし、かの伝説の聖竜まで倒してしまった俺の兄貴にして筆頭勇者クドウとはこの人の事だ」
なんか色々盛られているうえに俺はこのチンピラの兄貴ではないが、否定すると自慢げに言い放ったプリズンに悪い気がしたので俺は訂正せず、ドンとかまえる事にした。
すると気分よく聞いていた俺の耳に引っかかる言い方でブレイクは話をさらに続ける。
「あぁ、やっぱり! 新勇者のアールさんは金髪の美剣士と聞いたのでそうだと思いました!」
すると、俺に代わってプリズンが少し声を荒げてブレイクに注意する。
「おいっ! その言い方だとクドウの兄貴が地味っていう風に聞こえるじゃねえか! すいません、兄貴。こいつ冒険者歴が浅いんで礼儀ってモンを知らないんです」
俺にそう言ったプリズンはブレイクの肩をグッと掴んで俺に聞こえないようにするためなのかブレイクに小声で耳打ちした。
「——おいっ、兄貴の前で地味とか容姿をアールの兄貴と比べたりする話は禁句だ。かなり気にしてんだ!」
——全部聞こえてますけど?
どっちかというとブレイク君よりかお前の方が失礼じゃね?
ていうかあと容姿なんか全然気にしてないしー、地味とか派手とかどうでもいいからねー。うん。マジで。
「それにしてもシステアさん達、おっそいなー。10分後って言ってたのに全然来ないよねー」
どうでもいい話題を変えるべく俺がわざとらしい大きめの声で独り言を言うと、ブレイクの肩を掴んでいたプリズンが不思議そうな顔でこちらを見て言った。
「……システアさん達?」
「……うん、システアさん達」
先程の発言から見て俺がシステア達と会う事はプリズンも知っているはずである。
だというのになぜかかみ合ってなさそうな態度のプリズンの事を不思議に思いながら見ているその時、冒険者協会内が俺が入ってきた時以上の騒めきに包まれた。
どうやらやっとアリアス達勇者パーティーが到着したようである。
そう思い、俺が入り口の方を振り返ると、休みのはずのエリーゼと見知らぬ美少女がそこに立っていた。
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