第112話 炎系ではなく光線系でこんがりと

「聖竜女王……めっちゃ強そうだな。その人」



それが俺の率直な感想だった。


普通に最強の女魔王とかやっててもおかしくはない二つ名である。


俺がそんな事を思っていると少女?はクスっと笑った。



「魔王か。少なくても私達の世界に存在する全ての魔王より強いかな」



しれっと少女?はとんでもないことを言いだした。



(魔王って最強の存在じゃないの? ていうか魔王って死んだって言ってなかった? 何人もいるような口ぶりなんだけど……)



少女?の矛盾を俺が脳内で指摘すると少女?はすぐさまその答えを返した。



「死んだのは君が今から行く世界の魔王。別の世界には他にも魔王が何人かいるよ。どの魔王もそれ単体で人間界を滅ぼす力を持っているけどあの子は別格だから」



魔王が弱いわけじゃないと分かってなぜか少しだけ安心した俺に更に少女?は言う。



「だからこそあの子を正しく導く君の役目は大きいの。頼まれてくれるかな?」



「ちなみに断ったらどうなんの?」



選択肢があるかのように思える少女の問いに俺は一応他の選択肢を探ってみる事にした。


もしかしたらここは重要な分岐点で正しい選択肢を選べば晴れて俺が憧れた勇者コースへの道が開かれる可能性もあるからだ。


だがしかし、現実はとても無情だった。



「別の世界に飛ばすことになるけどどこの魔界に飛ばしても酷いと思うよ? 面倒見てくれる人いないだろうし、転生した瞬間に魔獣の餌食なんてことになるかも?」



うん。選択肢は他にないようだ。


ていうか魔界に飛ばす事は確定しているんですね。


大国の王子様とか裕福な貴族の子供としてでなくても貧しいながらも優しい両親がいるほっこりした一般市民の子供とかでも俺は一向にかまわないんだけどどうにかなりませんかね?


俺は心の中で少女に問いかけると少女?は最早当然のように俺の心を読んだ。



「できなくはないけど既にもう君が転生する体用意しちゃってるからね。鍛え方次第じゃ全ての世界の魔王すら超越しうるパーフェクトボディだよ。……だけど立派な角生えてるから人間界は無理かな」



とのことらしい。


さっきまで只の中学生だった俺だって角の生えた魔族が人間界で生きられるわけがないことくらいは分かる。


まぁダメ元で聞いただけなのでそこまでショックではない。


できれば人間界で勇者目指す的な事をやりたいが、転生のチャンスを得ただけ俺は運が良いのだし、最悪魔界スタートでもかまわないといえばかまわない。



俺がそうゆう風に考えていると、少女?はちょっと急かすように俺に言った。



「そろそろ時間もないし、行ってもらっていいかな? こう見えてお姉さん忙しいし、あの子がいつ暴れ出すかも分からないから」



「いや、そんなに凶暴な人なの? その人って? 俺大丈夫なんだよね?」



「……うん、きっと大丈夫。今は機嫌が悪いだけで根はとてもいい子だから。うん、きっと」



少女?の自信なさげな態度に俺は一気に不安になった。


全然大丈夫じゃないよね? それ?



「大丈夫! 手紙も書いておくし、君が転生する赤ん坊とってもキュートだから!」



手紙はともかくキュートは関係あるのだろうか?


機嫌が悪いくらいで世界を破壊しそうな人が可愛い赤ん坊程度でキャッキャッウフフするとも思えないのだが。


とはいえ、確かにこれ以上話し合っても結局選択肢のない俺は目の前にいるであろう少女?の言いなりになる他ない。



「分かった。行きます。行きますよ。たとえ転生した瞬間にそのドラゴンさんにブレスで焼き殺されてもアンタの事を恨んだりしないさ」



転生させてくれるだけありがたいしね。



「それはないと思うな」



ここに来て少女?は自信ありげにそう言うが——。



「だってあの子あまり炎系の魔法使わないから。多分やるなら光線系の魔法で……ってまぁきっと大丈夫」



「……分かった。とりあえず行ってくるよ。ていうかどうすりゃいいの?」



「流石男の子! 何もしなくてもいいよ。そのまま何も考えずにじっとしてて」



少女にそう言われて、俺はその場でじっとその時を待つ。


とは言ってもそもそも意識だけがある状態でやってることは今までと一緒なのだが俺はとりあえず待った。


少しすると、無いはずの身体に温かい感覚がするような気がして——。



「——準備できたよ。じゃああの子をよろしくね!」



「ちょっと待った! 最後に一ついいか?」



別れの挨拶を済ませようとした少女?を遮って俺は質問する。



「アンタにはまた会えるのか?」



それまで質問を全て即答で返していた少女?は初めて考える素振りを見せた後、明るい声で答えた。



「——君とあの子が役目を果たした時にはきっと」



その言葉を最後に俺の意識はプツンと途切れ、次に目を覚ました時に俺がいたのは揺り籠の中で美女に囲まれた俺は炎にも光線にも焼かれることなく、なぜかニヤニヤと笑う美女たちにほっぺを突き回される未来が待っていたのだった。

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