第111話 少女?の願い
「違うよ」
言葉を待っていた俺に少女?がかけたのはそんな言葉だった。
もちろん俺は言葉など発してはいない。
恐らく俺の心を読んで、それに対する返答がそれなのだろう。
最早、俺が何も発しなくても少女は喋るだけで意思疎通が成り立つ無茶苦茶な状況だが、それでは味気なさすぎるので俺は少女?に抗議した。
「……あのさ、俺の心読むのやめてくんない? それが無理でも俺の言葉待ってくれないかな?」
俺が抗議すると、少女は間を空けることなく俺に言う。
「そうだね、気を付ける。でも世界を邪悪な魔王から救ってくれませんか?——ではないよ。そもそも魔王は勇者が討っちゃったし」
あ、やっぱ違うんだ。
でも魔王とか勇者がいる世界ではあるのね。
ていうか魔王死んじゃってんなら頼む事なくない?
少女は何か言いたそうにしているが、ちゃんと俺の言葉を待ってくれているらしく、うずうずさせておくのも可哀想なので俺は思っていた疑問をすぐ口にした。
「じゃあ俺に頼みたい事ってなんなのさ? 世界はもう平和になったんだろ?」
「そうだね。これまでと比べたらずっとマシになったね。でも勇者は死んじゃったし、魔王が死んだと言っても魔人と人間間の戦力差は大きいから当分は人間界にはつらい時代が続くだろうね」
どこか他人事のように言った少女?に俺は少し違和感を覚える。
話だけ聞けば窮地の続く人間界を救って欲しいという話になりそうだが、俺にはなんとなくこの少女の願いがそうではないと直感的に理解できた。
「アンタが直接行って人間界を救えばいいだろ?」
俺は試しに元も子もない事を言ってみた。
どんな小説や漫画に出てくる女神も忙しいとか神は人間界に干渉しないとか訳の分からない理由を並べて自らは勇者を送り出すだけ送り出して何もしない奴が多いが、アレはただそれをやってしまうと話が始まらないという作者の都合に過ぎない。
どういう言い訳をするか俺は少しワクワクしながら少女?を観察することにしたが、この感情すら少女?には筒抜けなのだろう。
すると少女は言った。
「そうしたいのは山々なのだけど、あの世界には会えない子達がいるの」
少女の声は少し悲しそうだった。
結局、少女?が会いたくない人がいるから世界は救えないのだろうか。
その世界の人たちが聞けば今の話を聞いて納得できるだろうか?
その世界がどのような状況か知らないが多分納得はできないだろう。
俺も納得はできていないが、とりあえずそれは置いておくことにする。
「まぁいいや。で、結局俺に頼みたい事って?」
少女?の話を聞いていても一向に話が見えてこない俺は再度少女?に尋ねると、少女は遂に俺への願いを口にした。
「……友達になってあげて欲しいの」
「……えっ? 誰と? ていうか意味が分からん」
俺も馬鹿ではない。もちろん少女が言っている言葉の意味自体は理解している。
友達になれって? 誰の?
俺が分からないのは少女の意図とかそんなことを言いだした理由とかそんな話だ。
聞いた限りじゃ結構ヤバイ状況の人間界を放っておいて、どこの誰かも分からない奴と友達になる?
「あ、正確には子供にかな? とにかくあの子の心を鎮めないと私達の世界は大変な事になるの。あの子には私達の世界にとってとても大事な役目があるのだけど、このままじゃあの子は何もしないまま終わってしまうの」
意味が分からないから聞いたのに更に意味が分からなくなってしまった。
混乱する俺の心を読んだのか少女?は優しい声で言った。
「別に何も考えずキャッキャしといてくれたら、大丈夫だよ。どのみち赤ん坊に出来る事なんてその程度だから。そして時が来たらあなたがあの子を正しい道へ導いて。何千年後になるかは分からないけど、時が来たらあなたにも分かるから」
えっ、そんな気の長い話なの?
覚えてる自信ないんだけど……。
ていうかその前に魔人に征服されたら元も子もなくない?
「あ、人間界も助けてくれるとありがたいかな」
俺の心を読んだのか少女?は思い出したかのように付け足した。
「でも転生先は魔界だからその場合はどうすればいいんだろ?」
「魔界かよ! どうすんだよ!?」
「えっと……、頑張って。多分、君めちゃくちゃ強くなるから多少の無茶は利くと思うしね」
少女?に全てを丸投げされた俺は小さくため息を吐いた。
「……じゃあとりあえず魔界征服してから考えるか。俺、勇者とかそういうのやりたかったんだけどな」
「魔界征服もいいけど私が言った事も忘れないでね」
「正しい道へ導く……ね。せめてその人の役目と起きる事くらい教えてくれてもいいと思うんだけど?」
俺が抗議するとまた少女は悲しそうな声が聞こえた。
「君の口が軽いとは思わないけど、もしあの子に気付かれたら今のあの子は全ての世界を滅ぼすわ。流石のあの子でも全ての世界は滅ぼせないかもしれないけど、世界は抵抗する力を失ってしまう」
なんだかよく分からない話をそれらしい感じで少女は言ってきた。
学校の学友であれば完全に中二病認定を下していただろう。まぁ人の事は言えないが。
全然話が見えてこないが、とりあえずそこの子とやらと仲良くなって、世界にヤバい事が起きたらひっぱたいてでも正しい道に戻せって事だろう。きっと、多分。
そして、ついでに人間界も救っといてくれたらなお嬉しいなと。
「そういうこと」
よくできましたといった感じで少女?はそう言うが俺としてはこれだけは聞いておきたい。
「それでそのあの子とやらの名前は?」
俺の質問を予想していたのか間を空けることなく少女?はその名を口にした。
「リア……始祖の竜、聖竜女王フィーリーア」
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