第110話 多忙のシステアと妄想するクドウ

何のメリットもないアルジールの陰謀を見事阻止した俺は比較的静かなミンカの宿の外に出て、システアに連絡を取るため、通信魔法を起動した。



「もしもし、システアさん、店の予約取れました。今から迎えに行ってもいいですか?」



俺がそう言うと、システアのなぜか少し慌てた声が聞こえてきた。



「えっ、もうですか? ちょっと待ってください。今ちょっと手が離せなくて——。えっ? こっちか? ちょっと可愛すぎないかの? いや、でもしかし——」



システアはどうやら誰かと話しているようだ。


魔人との戦いの後の戦後処理かもしくは母さんがやらかした後始末にでも追われているらしい。


可愛すぎるとかそんな話が聞こえた気がしたがきっと俺の聞き間違いだろう。



「もう少し後にしますか? 知り合いの店なので、多少なら遅らせても問題ないと思うので」



俺は気を使い、そうシステアに提案する。


本当はあまり良くないのだろうが、当日にいきなり貸し切りにすることと比べれば可愛いものだ。


それくらいならミンカ母も融通してくれるだろう。


すると、システアの慌てた返事が返ってきた。



「あ、いえ、お待たせするわけにはいきませんから、10分後に冒険者協会まで迎えに来てもらえますか? ——あぁ、ええい! 本当じゃろうな!? 本当にこれでいいのじゃな?」



何の話かまでは分からないがどうやらかなり紛糾しているようだ。


大事な話ならじっくり話し合った方がいい気もするが、後は都市長かギルドマスターにでも任せればいいと俺は思う。


そもそもそんな事務仕事は勇者パーティーの仕事ではないはずだし。


仮にそういう事まで勇者パーティーがやらなければいけないのだとしてもとても俺達『魔王』には無理だ。


俺もそういう頭を使うような事は苦手だし、残りのバカA、バカBにはもっと無理だ。



(そう考えるとアルレイラは凄かったんだな。そういう事は全部あいつに任せっきりだったもんな)



ミッキーはなんもしないし、アルジールは俺に付きっ切り、ブリガンティスは頭は悪くないのだろうが、頭の中は人間界侵略の事ばかり。


結果、魔界で起きた問題や細かい仕事などは全てアルレイラに任せていた。



(それなのに文句ひとつ言わず、一生懸命働いてくれたよな。連れてくる奴のチョイス間違えたかもな)



そんな! クドウ様! と言うアルジールの姿を幻視しつつ、俺は思う。



(まぁアルジールの方が気を使わないで済むし、下手したら断られていた可能性もあるしな。考えるだけ無駄か)



あの時誘っていたのが、アルレイラだったら断られていた可能性も十分あるし、引き留められた可能性もそれなりに高い。


仮にアルレイラに転生の誘いを受け入れられたとしても、魔界に残っていたのはブリガンティス、ミッキー、アルレイラの3人ではなく、ブリガンティス、ミッキー、アルジールの3人になっていた。


その場合、俺の命令があったとしても、シラルークでのアルジールの言動を見ていた限り、アルジールが人間界侵攻を自重したかどうかなんて分かりゃしない。


下手したら、今頃アルジール、ブリガンティス、ミッキーの3軍+始祖竜(母さん)が一気に人間界に雪崩れ込んでいた可能性すらあった。


そんなものはカオスとか言うのも生ぬるいレベルのカオスである。


アルジールは俺がどんな事が起きても力で容易くねじ伏せる究極生物かなんかと勘違いしているようだが、俺にだって無理な事はある。


あの時は一番チョロそうだし、気楽そうとそんな理由で選んだ相棒アルジールだったが、今になって思うと大正解だったのかもしれない。


俺がそんな妄想に耽り、少しシステアの問いに間が空けていると、心配そうな声のシステアの声が俺の頭に響いた。



「——あ、クドウさん。10分後で大丈夫ですか? 遅いなら急ぎますが」



「あ、すいません。大丈夫ですよ。では10分後に」



俺はシステアと待ち合わせの約束を取り付けると、通信魔法を解除した。

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