第85話 壮絶な戦いの裏で
クドウとユリウスがフィーリーアと戦いを繰り広げていた頃——。
冒険者パーティー『魔王』と勇者パーティー『光の剣』によって敗走を強いられた魔人ゾデュスは負傷した弟魔人ガデュスに肩を貸しながら来た道を戻っていた。
「クソッ! なんだ、あいつらは!」
ゾデュスは今日、何度目か分からない怒号を上げていた。
当初聞いていた話とは全然違う。
魔王ギラスマティア亡き今、もう人間界を守るものはいない。
いるとしても障害となりうるのは勇者パーティーくらいのもので残る戦力は魔人に太刀打ちなどできるはずもない雑兵ばかりだとゾデュスは聞いていたのだ。
それが蓋を開けてみれば手も足も出ないほどの大惨敗だった。
勇者アリアスが強かったのはもちろんだが、只のE級冒険者を名乗る冒険者クドウに自らが連れてきた魔人の殆どがやられてしまったのだ。
「クソッ! ブリガンティス様になんて言えばいやぁいいんだ!」
ブリガンティス軍の戦力を預かったというのにこの大惨敗である。
このまま帰ってもゾデュスの未来は明るくない事だけは確かだ。
ブリガンティス軍の軍団長まで上り詰めたというのにこれでは折角の今までの努力は水の泡になるだろう。
ゾデュスの愚痴にこれまでゾデュスに肩を貸されながら歩いていたガデュスが口を開いた。
「でも結局ぅ~、部下たちがやられたのって例の巨竜の攻撃だよね~? 全部巨竜の所為にしちゃえばいいんじゃない~?」
部下達にトドメ刺したのは確かに巨竜の想像を絶する光の魔法によるものだった。
そう考えれば、人間にやられたと素直に報告するよりも全て巨竜の攻撃の所為にすればいいというガデュスの案も一見悪くないように思えるがゾデュスはそうは思わなかった。
「アホ、ブリガンティス様が欲しいのは結果だけだ。俺達が誰にやられたとしてもあの人からしたら関係ねぇのさ」
今回の人間界侵攻は完全に魔王軍四天王ブリガンティスの独断専行なのだ。
成功さえすれば、後から他の四天王に何を言われても黙らせることはできたかもしれないだろうが、失敗したとなれば話は別だ。
他の四天王はもちろん最悪、身内であるはずのブリガンティス軍からも非難は免れないかもしれない。
それ以上に——。
「それにな、ブリガンティス様は大の竜嫌いだ。全員無傷の状態から巨竜のたったの一撃で全滅食らったなんて言ってみろ。その場でぶち殺されるぞ」
ブリガンティスがなぜ竜族の事を毛嫌いしているかは誰も知らない。
それが理由で龍神族である元四天王筆頭魔人アルジールとの仲もかなり険悪だったのだが、そもそもの竜嫌いの原因となったのが魔人アルジールでない事は古参の魔人であればだれもが知る話だった。
「そういえばそうだったよねぇ~。なんでかなぁ~?」
ガデュスがゾデュスの言葉に間延びした声で疑問を返すとゾデュスは不機嫌そうな表情で怒鳴り声を上げた。
「そんな事を俺が知るか!」
その後もゾデュスは不機嫌なままガデュスに肩を貸しつつ森を歩いていると、ふと何者かがこちらに向けて迫ってきている魔力の気配を感知し、ガデュスに声をかけた。
「おいっ、気づいてるか?」
「なんかこっちに来てるねぇ~? あいつらが追ってきたぁ~? でも方向がおかしいんだよなぁ~」
ガデュスの言う通り、勇者アリアスや冒険者クドウが追ってきたのだとしたら方角がおかしい。
勇者達がいるとしたら人間界の町があるだろう西方面のはずで今ゾデュス達が感じ取っている魔力の気配はほぼ真北から発せられている。
「援軍かなぁ~?」
ガデュスはそう言うがそれもないだろう。
現在ゾデュスとガデュスがいる魔界と人間界の境界付近の北には魔人の町もなければ軍事拠点もない。
援軍が仮に来るとしても魔界の主要都市がある東方面からだろう。
ゾデュス達に迫っている者が未だ何者かは分からないが、先程見た巨竜ほどではないにしてもかなりの速度でこちらに向かってきている。
「飛んでいるな、明らかに速度が速い」
地上を歩いているなら森の木々を避ける必要などがあるためいくら足が速い者でも全力疾走は難しい。
それに魔力の反応自体もやや上の方から感じる気がするのでほぼ間違いないだろう。
「やれるか? ガデュス?」
正直今のガデュスは戦力になる気はあまりしないが一応ゾデュスは聞いてみると、ガデュスはあまり乗り気ではなさげに答えた。
「援護くらいならぁ~。でもあんまり期待しないでくれよぉ~」
ガデュスはそう言い、借りていたゾデュスの方を離し、ゆっくりとゾデュスから離れていく。
魔人の中でもかなり頑丈な部類に入るガデュスだが、アールとかいう冒険者にボコボコにやられたばかりでその動きは普段のガデュスのものとは程遠いものになっている。
(クソッ! 実質戦えるのは俺だけか!)
心の中で愚痴るゾデュスだが、いくら愚痴った所で結果は変わらない。
飛来する謎の存在の速度を見るに逃げ切るのは不可能で真っすぐこちらへ向かっていることから完全にゾデュス達の存在を補足していることは間違いなかった。
「来るぞ!」
ゾデュスがそう叫んだ数秒後、空から人影がふわりと舞い降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます