第81話 だってウキウキしてたんだもの
クドウとユリウスの前でフィーリーアが滝のように涙を流している。
いわゆるザ・号泣。
クドウの長い人生の中でも滅多にお目にかかったことのない見事なものだった。
「おっ、おい。凄い勢いで泣いているが助かったのか? これは」
ユリウスが目の前の光景に目を見開きながらクドウに問う。
ユリウスとしても人——というか竜だが。——がここまで凄い勢いで泣く所はあまり見たことがないのだろう。
というか人ならばともかく竜の始まりたる始祖竜の大号泣など人間の歴史上見たことのある者など皆無といっていい。
「どうやら覚えてくれていたみたいだな。……あっくんの決め台詞」
「誰だ? あっくんとは? 魔剣士とか抜かしていたのだから魔人アルジールや勇者アリアスの事ではないのだろう?」
あっくんの正体を知らないユリウスはクドウにあっくんの正体を不思議そうな表情で尋ねた。
そりゃ決め台詞を持っているかは知らないが、アルジールやアリアスの決め台詞を叫んだ所でフィーリーアが止まるわけはないのだからその2人のはずはないのは当然だ。
まぁどうせ何を言ったところでユリウスにはあっくんの正体など分からないだろうが俺は包み隠すことなくユリウスに教えてやった。
「怪人に魔王に果ては宇宙怪獣と戦いを繰り広げた英雄の名さ……」
「すまん、意味が分からん」
だろうな。俺がユリウスの立場でもそう言うだろう。
だが、それが真実なのだから仕方がない。——まぁアニメの話だけど。
「……ところでいいか?」
ユリウスが不可解そうな顔で俺に聞いてきた。
「なんだ?」
「聖竜はどこに消えた? 俺の気のせいでなければだが、聖竜がいたはずの場所に凄まじい絶世の美女が浮かんでいるように見えるのだが」
安心しろ。目の錯覚とか母さんの幻惑魔法的超絶魔法とかじゃないから。
「あれが母さんの人形態だ。美人だろ?」
俺とユリウスが話している間にフィーリーアは人形態になっていた。
俺は母さんだろうが嫁だろうが赤の他人だろうが、過剰評価もしなければ過小評価もしない。
前にも言った気もするが、俺はあらゆる分野で100点をつける事はそうそうない。
が、目の前で未だシクシクと泣き続けている母さん。つまりフィーリーアは100点の容姿を持つ絶世の美女なのである。——99点寄りの100点とかではなくマジの100点のな。
「ババアだと思っていたぞ。……ていうか全然貴様に似てないな」
この野郎。それは今の俺のこのよく見ればイケメンに見えなくもないような気がする75点フェイスの事を言ってんのか?
そう思ったが、俺は普通に返した。
「血が繋がっていないしな。ていうか今の聞こえてたらお前消し炭にされてたぞ。まぁそれどころじゃないみたいだけどな」
未だに泣き止まないフィーリーアに俺はゆっくりと近づいていった。
「かあさん」
俺が話しかけてもフィーリーアは「生きてた、ギー君が生きてたよぉー」とシクシクと泣き続けている。
さっきまでの史上最強完全無欠のフィーリーアは見る影もなくなっていた。
埒が明かないので俺は思いっきり叫んでみる。
「かあさん!」
するとフィーリーアはやっと俺の声が聞こえたのか「わっ」と驚いた後、俺と見つめ合い——そして。
「ギィー君だ! ギーくぅぅぅん!」
フィーリーアは傍まで来ていた俺を思いっきり抱きしめ、俺の顔をその豊かな胸の中に埋めさせた。
「母さん、苦しい」
親子でなければ大いに興奮する所だろうが、いくら絶世の美女とはいえ母親である。
「あっ、ごめんね」
フィーリーアは俺が言葉に少し俺の頭に回した腕の力を弱めた。
だが、完全に俺を開放する気はないようで、そのままフィーリーアは俺の顔を胸に埋めたまま俺に話しかけた。
「ギー君、どこ行ってたのよ? もう少しで人間界を破壊しちゃうとこだったんだよ」
可愛く言っても俺がいなくなったくらいで人間界を破壊するのは遠慮してもらいたい。
まぁなんだか嬉しくもあるし、そもそも俺が悪いので反論せず俺は素直にフィーリーアに謝罪する。
「ごめん、母さん。ウキウキしてて母さんに転生すること伝えるの忘れてた」
そりゃ転生するのだからウキウキするのは仕方がない。
とはいえ、フィーリーアに伝え忘れたのは今から思えばかなりまずかった。
まさかこんな事態になるとは思ってもみなかったのだ。
だって普通思わないよね?
息子がちょっくら転生したら母親が人間界滅ぼしに来るなんてさ。
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